その判断は、
次はもっと上手くなるか
物流データ意思決定シリーズ|分析結果を、実行可能な解き方と投資判断につなげる
「去年も同じような話をしましたよね」——会議でこの言葉が出たとき、たいてい誰も、去年どう決めて、それがどうなったのかを正確には覚えていません。
同じ問題に二度目に出会ったとき、組織は速く決められるようになっているでしょうか。それとも、また同じ長さの議論を、同じ材料でやり直すのでしょうか。
・打った手の効果が測られないと、何が蓄積されないのか
・対応表は、教科書ではなく自社の実績から育つ
・予実の差を「見込み違い」で終わらせない
・9回を通して、どこへ向かってきたのか
効果が測られないと、判断は上手くならない
第5回で、同じ「残業が増えた」という現象から、複数の問題構造と、それぞれに対応する解決策が分岐することを見ました。応援で吸収するのか、配置を変えるのか、レイアウトを見直すのか、受注条件に踏み込むのか、増員するのか、設備を入れるのか。
あの対応表は、あくまで出発点の整理です。本来必要なのは、自社の現場で、どの構造の問題が、どの手段で、どれだけ解けたのかという記録です。
ところが多くの場合、打った手の効果は測られません。理由は意欲の問題ではなく、条件がそろわないからです。
・何をいつ実施したのかが、記録に残っていない
・実施の前後で、物量も要員も違う。単純に比べられない
・複数の施策を同時に打っていて、どれが効いたのか分からない
・数字が良くなったが、たまたま物量が少なかっただけかもしれない
そして測られないまま、「良くなった気がする」で終わります。その結果、次に同じ現象に出会ったときも、判断の材料は前回と同じです。経験は増えているはずなのに、判断の精度は上がっていません。
どの構造の問題がどの手段で解けたのかという対応表は、育ちません。
対応表は、自社の実績から作られる
ここが、このシリーズで最後に伝えたいことです。解き方の対応表は、どこかから与えられるものではありません。
「波動による残業には応援が効く」というのは、一般論としては正しい。しかし自社の現場で、どの程度の波動までなら応援で吸収できるのか、どの工程からなら出せるのか、何名でどれだけ戻るのか——これは自社の実績からしか分かりません。
| 一般論としての対応 | 自社の実績から育った対応 |
|---|---|
| 波動による残業には、応援で対応する | 検品から2名を回せば、30分程度の遅れは当日中に戻る。それ以上の遅れには効かない |
| 配置の不均衡には、シフト変更で対応する | 月末3日間だけ開始を1時間前倒しすると、残業は減る。他の日に前倒ししても効果はない |
| 能力不足には、増員で対応する | 増員が処理量に反映されるまで2か月かかる。繁忙期の直前に採っても間に合わない |
右の列があると、次の判断は速くなります。議論するまでもなく、効く手と効かない手が分かっているからです。そして右の列は、施策を記録し、効果を測ることでしか手に入りません。
予実の差は、見込み違いではなく、見積もりの誤差
効果測定には、もう一つの使い道があります。
第2回で、判断には「このままだとどうなるか」という見込みが要る、と書きました。見込みを立てれば、必ず実績とのズレが出ます。このズレをどう扱うかで、次の判断の精度が変わります。
差が出たとき、問うべきは「誰の見込みが甘かったか」ではありません。見積もりの、どの前提がずれていたのかです。
この4つのどれだったのかが分かると、直すべき場所が決まります。物量がずれていたなら予測を、処理速度がずれていたなら標準値を、効き方がずれていたなら対応表を直す。差を一括りに「見込み違い」と呼んでいるうちは、どれも直りません。
判断の境界も、一度決めて固定するものではありません。物量の前提が変われば、越えたと判断すべき水準も変わります。
「この水準を超えたら構造の見直しを検討する」と決めたなら、実際に超えた回数と、そのとき何が起きたかを記録して、線そのものを直していく。境界を持つことと、境界を見直すことは、セットです。
効果を測るために、最低限必要なこと
厳密な比較は簡単ではありません。ただ、始めるのに必要なものは多くありません。
| 記録すること | 何のために使うか | 最小の始め方 |
|---|---|---|
| いつ、何をしたか | 効果を後から比べる起点になる | 日報に一行。「◯時に検品から2名、梱包へ」 |
| そのときの見込み | 実績と突き合わせるため | 「このままだと19時」とメモしておくだけでよい |
| 比較条件(物量・要員) | 条件を揃えた日どうしで比べるため | 同程度の物量・曜日の日を数日拾う |
| 効かなかった記録 | 同じ手を繰り返さないため | 効いた話より残りにくい。意識して残す |
| 分解できなかった箇所 | 次に何を集めるべきかの要件になる | 「ここが分からなかった」を記録する |
最初の一周は粗くて構いません。見込みは割り算で、比較は同条件の日を数日拾うだけ。それでも一周すれば、次の周のための材料が残ります。完璧な仕組みを作ってから始めるより、粗いまま一周させるほうが早く進みます。
9回を通して、どこへ向かってきたのか
第1回で、分析は問題を示すが、問題を解く方法までは示さない、と書きました。そこから9回かけて見てきたのは、分析結果を解決策に変換するまでの工程です。
| 回 | 扱ったこと |
|---|---|
| 第1回・第2回 | 分析は記述であり、選択には比べる相手が要る |
| 第3回・第4回 | 問題の定義と、分析の範囲が、選択肢を狭めてしまう |
| 第5回 | 現象と問題構造と解決策を分け、選択肢を狭めずに並べる |
| 第6回・第7回 | 効果・時間・可逆性・コスト・権限で比較し、判断の境界を先に決める |
| 第8回 | 決めたことを、現場が動ける粒度に翻訳する |
| 第9回 | 結果を測り、次の判断に返す |
この一続きが回り始めると、判断は周を重ねるごとに速くなり、根拠も蓄積されていきます。逆に、どこか一段が欠けていると、分析は報告のまま止まります。
データ分析の目的は、問題を見つけることではありません。
問題の構造を理解し、実行可能な解き方を選ぶことです。
そしてその先にあるのは、今ある経営資源で解ける問題と、投資によって初めて解ける問題を見極めることです。投資ありきでもなく、改善ありきでもない。その境界をデータで引けるようにすることが、物流データ活用の到達点だと考えています。
そのために必要なのは、正しい答えを一つ出すことではありません。
複数の解き方を比較し、自社にとって実行可能な解を選び、その先にある投資判断まで説明可能にすることです。
「現状を知る」から、その先へ
私たちがNW-Optimizerで取り組んでいるのも、この線上にあります。現状を数字にするところで終わらせず、「このままだとどうなるか」「何を変えるとどうなるか」を並べて比べられるようにすること。実績を見込みに変え、見込みを比較に変え、その結果をまた実績で確かめる——この往復を支える仕組みとして考えています。判断そのものをするのは、現場と経営の側です。
ここから先は、組織の話になる
ここまで扱ってきたのは、どう判断するかです。判断の方法は、この9回でひととおり揃いました。
しかし、判断できるようになっても、組織が動くとは限りません。誰がその数字を見るのか。誰が決めるのか。決めたことを、誰が実行するのか。現場に見えている情報と、本社が持っている権限が、噛み合っているのか。
これは判断の方法ではなく、判断を回す仕組みの話です。意図的にこのシリーズから外してきた論点でもあります。次のシリーズでは、そちらを扱う予定です。
最後に、この9回を読み終えた時点での問いを一つだけ残しておきます。
前回この問題に出会ったとき、自社はどう決めたでしょうか。そして、その判断が正しかったかどうかは、今、確かめられるでしょうか。
その答えは、分析レポートの中にはありません。打った手と、そのときの見込みが、どこかに残っているかどうかで決まります。
物流データ意思決定シリーズ(全9回)
第2回「何が起きたか」は分かった。「変えたらどうなるか」は分かるか
第3回処理能力は足りているのに、なぜ残業が減らないのか
第4回出荷が回らない原因は、本当に倉庫の中にあるのか
第5回「生産性が低い」は、問題ではなく現象である
第6回「あと10人いれば解決する」は、解決策と言えるのか
第7回その線は、限界が来てから引くのか
第8回その解決策は、明日の現場の言葉になっているか
第9回その判断は、次はもっと上手くなるか(本記事)
施策の前後を同じ条件の日で比べ、見込みと実績の差がどこから来たのかを分ける。今あるWMSや設備のデータで、どこまで測れるかをご一緒に確認できます。
「良くなった気がするが、確かめられていない」という段階が、ちょうど入口です。
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