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コラム | 物流データ意思決定シリーズ 第6回 | 2026年10月5日

「あと10人いれば解決する」は、
解決策と言えるのか

物流データ意思決定シリーズ|分析結果を、実行可能な解き方と投資判断につなげる

解決策を5つの軸で比較する

「必要人時から逆算すると、あと10人です」——この数字が出た会議で、本当に10人の採用が始まったことは、どれくらいあるでしょうか。

多くの場合、その場は「分かった、検討する」で終わります。そして翌月も、同じ試算が同じ資料で報告されます。数字が間違っているわけではありません。実行できないだけです。

この回で扱うこと
・分析上の最適解が、そのまま実行できるとは限らない理由
・同じ「人を増やす」でも、中身がまったく違うこと
・解決策を並べ直すための5つの軸
・戻せる手と、戻しにくい手をどう扱うか

「あと10人」は、まだ解決策ではない

前回、現象から問題構造を特定し、対応する解決策の選択肢を並べるところまでを扱いました。今回はその続きです。並べた選択肢に、実行可能性という第2のフィルターをかけます。

「あと10人いれば解決する」という試算は、必要量の計算としては正しい。しかし、これを解決策として扱おうとすると、すぐに現実に当たります。

・そもそも募集をかけても集まらない

・採用できても、戦力になるまで数か月かかる

・必要なのは繁忙期だけで、閑散期には余る

・固定費が増えると、翌期の収支計画が組めない

・そもそも増員の決裁権が、この会議の参加者にない

これらは「言い訳」ではありません。実行可能かどうかを判断するための制約条件です。必要量だけを満たして、この5つを満たさないものは、実行されないまま資料の中に残り続けます。

分析から導いた最適解と、実行可能な最適解は違います。
前者だけを出し続けても、現場は変わりません。

同じ「人を増やす」でも、中身が違う

ここで注意したいのは、「増員は無理だから諦めよう」という話ではないことです。むしろ逆で、「人を増やす」という一語の中に、性質のまったく違う手が混ざっていることが問題です。

手段 効果が出るまでの時間 元に戻せるか 費用の性質
工程間の応援 当日〜翌日 その日のうちに戻せる 追加費用なし
シフトの組み替え 数日〜1週間 翌週には戻せる ほぼ変わらない
スポット・派遣の投入 1週間〜1か月 契約期間の終了で戻せる 変動費
委託範囲の拡大 1〜3か月 契約条件による 変動費に近い
直接雇用の増員 3〜6か月 戻しにくい 固定費
設備の導入 6か月〜 戻しにくい 固定費・資本支出

この6つは、いずれも「不足している処理能力をどう補うか」という同じ目的に対する選択肢です。しかし、決めてから効くまでの時間が違い、やめたくなったときに戻せるかどうかが違い、費用の性質も違います。可逆性は「戻せる/戻せない」の二択ではなく、上から下へ、戻しにくさが増していく程度の差として見てください。

「あと10人」という表現は、この違いを全部消してしまいます。だから会議で議論が噛み合いません。ある人は繁忙期のスポット投入を想像し、別の人は正社員の採用を想像し、また別の人は設備投資を想像したまま、同じ「10人分」という言葉を使っているからです。

効果だけで比べていないか

解決策を比較するとき、多くの資料は効果の欄しか持っていません。「この施策で生産性が○%改善する見込み」。それは必要な情報ですが、それだけでは選べません。

実行可能性まで含めて比べるなら、少なくとも5つの軸が要ります。

解決策を並べ直すための5つの軸
効果 その手で、どの構造にどれだけ効くのか 前回の「問題構造」と対応しているか。対応していない手は、効果の見込みも立たない
時間 決めてから、効き始めるまでどれくらいかかるか 3か月後に効く手は、来週の締めには間に合わない
可逆性 効かなかったとき、元に戻せるか 戻せる手と戻しにくい手では、外したときの損失がまったく違う
コスト いくらかかるか。そして固定費になるか、変動費か 総額が同じでも、固定費化するかどうかで意思決定の重さが変わる
権限 誰が決められるのか 現場で決まる手と、経営判断が要る手と、社外との合意が要る手がある

この5軸で並べ直すと、議論の質が変わります。「効果が一番大きいのはどれか」ではなく、「この不確実性のもとで、いま決めるべきはどれか」という問いになるからです。

不確実なときは、戻せる手から考える

可逆性という軸が効いてくるのは、先の見通しが不確かなときです。戻せる手と戻しにくい手では、外したときの損失がまったく違います。効果の見込みが同じでも、この2つを同じ重さで扱うことはできません。

だからこそ、戻しにくい手を選ぶときには、何が分かれば決められるのかを、先に決めておく必要があります。これは「決断を先送りしてよい」という意味ではありません。決めないまま様子を見るのとは、まったく違います。

物流に置き換えると、こうなります。物量が今後も伸び続けるのか、今期だけの山なのかが分からない段階で、固定費化する増員や設備投資に踏み切ると、外したときに戻せません。一方、応援とシフト組み替えは、外しても翌週には戻せます。

したがって、不確実性が高い局面では、戻せる手と戻しにくい手を比較したうえで、比較の結果として戻せる手を選ぶのなら、「どの数字がどうなったら、戻しにくい手に進むのか」を同時に決めておく。戻せるから先に打つ、という順序の話ではありません。その線の引き方は、次回のテーマです。

並べるのは全部。決めるときは、階層になる

ここで、このシリーズの立場をはっきりさせておきます。少し込み入って見えるので、二つに分けて書きます。

検討と判断で、扱いが変わる
検討・比較の段階
↓すべての選択肢を同じテーブルに載せる
業務改善から設備投資まで、並列に比較する
↓
判断の段階
↓ここで初めて、階層が出る
既存資源の使い方で解ける問題に、戻せない投資はしない
順番に試すのではなく、並べて比較した結果として、そうなる

前回強調したのは、上半分です。議論の入口で選択肢を狭めない。「改善か投資か」の二択で始めない。

今回言いたいのは、下半分です。並べて比較した結果、今ある資源の使い方を変えるだけで解けると分かった問題に、戻せない投資をする理由はありません。効果が同じなら、戻せる手のほうが合理的です。

ただし、その逆も同じだけ重要です。構造的な能力不足を、現場の努力で延命し続けても解決しません。毎月の残業と応援で表面上は回っていても、それは問題が解けたのではなく、人が吸収しているだけです。この状態を「対応できている」と読むと、投資判断は永久に来ません。

「まず改善をやり切ってから投資」でもなく、
「人手不足だから自動化」でもありません。
並べて比較した結果として、どちらなのかを決めます。

物流で、この比較が難しい理由

一つは、戻せる手が、いつでも使えるとは限らなくなっていることです。

応援・スポット・派遣といった手段は、これまで「戻せる調整弁」として考えられてきました。しかし、人手の確保自体が難しくなるにつれ、必要なときに必要な量を確保できるとは限りません。可逆性が高いはずの手が、実際には打てない——という状況が起こり得ます。

これは、5軸のうち「可逆性」と「時間」の前提が変わってきたということです。従来どおりの順序感覚で「まず応援で凌ぐ」を選び続けると、凌げなかった日の損失が積み上がります。

もう一つは、権限の軸が、物流では特に重いことです。効果が最も大きい手が、自部門では決められない手であることは珍しくありません。受注の締め時間や出荷条件の見直しは、荷主との合意が要ります。

ただし、決められないことと、比較の対象から外すことは別です。第4回で扱ったとおり、権限がなくても、そこに原因があるなら選択肢としては並べておく。並べたうえで「これは自部門では決められない」と記録されている状態と、最初から検討されていない状態は、まったく違います。前者は、次に上位の判断を仰ぐときの材料になります。

もう一つの難しさ:人は等価な資源ではない

「あと10人」という表現には、もう一つ無理があります。習熟度の差が大きい現場では、10人の中身によって効果がまったく変わるからです。

必要人時の計算は、全員が平均的な生産性で働く前提で立てられます。しかし新規に入った10人が最初の数か月でどれだけ処理できるかは、その前提とは違います。頭数の計算だけで比較すると、増員の効果は構造的に過大評価されます。

この判断をするために、最低限どのデータが要るか

5軸で比較するために必要なものを整理します。効果の欄以外は、分析システムの外にあるものが多く、意識して残さないと貯まりません。

軸 必要なデータ どこから取るか
効果 問題構造ごとの、過去に打った手とその後の変化 施策の実施記録と、条件を揃えた前後比較
時間 手段ごとの、決定から効き始めるまでの実績日数 過去の採用・契約・導入の記録。見込みではなく実績
可逆性 契約期間、解除条件、減らせる単位 契約情報。データというより、整理されているかどうか
コスト 手段ごとの単価と、固定費か変動費かの区分 原価管理。人時あたりに揃えると比較できる
権限 その手を決められるのは誰か データではないが、選択肢の欄に記録しておく

このうち、意外と持っていないのが「時間」の実績です。「増員には3か月かかる」という感覚はあっても、直近の採用が実際に何日かかり、戦力化までどれだけの期間が必要だったかを記録している現場は多くありません。

この数字がないと、比較は「たぶんこれくらい」で行われます。そして見込みが外れたとき、何を修正すべきかも分かりません。比較の精度は、効果の予測だけでなく、実施までにかかる時間についてどれだけ実績を持っているかにも左右されます。

次回は、この比較の手前にあるものを扱います。戻せる手で凌ぎ続けるのか、戻しにくい手に進むのか——その線を、限界が来てから引くのか、それとも先に引いておくのか。

物流データ意思決定シリーズ(全9回)

第1回分析は終わった。それで、明日から何を変えるのか
第2回「何が起きたか」は分かった。「変えたらどうなるか」は分かるか
第3回処理能力は足りているのに、なぜ残業が減らないのか
第4回出荷が回らない原因は、本当に倉庫の中にあるのか
第5回「生産性が低い」は、問題ではなく現象である
第6回「あと10人いれば解決する」は、解決策と言えるのか(本記事)
第7回その線は、限界が来てから引くのか
第8回その解決策は、明日の現場の言葉になっているか
第9回その判断は、次はもっと上手くなるか
増員案と再配分案を、同じ条件で比べられます

今のシフトと工程能力のまま何人必要なのか、配置を変えると何人ぶん吸収できるのか。条件を変えたときの着地見込みを並べて比較するところから、ご一緒に確認できます。

「増員か、再配分か」を感覚で決めている段階が、ちょうど入口です。

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