出荷が回らない原因は、
本当に倉庫の中にあるのか
物流データ意思決定シリーズ|分析結果を、実行可能な解き方と投資判断につなげる
「出荷が間に合わない日が続いているので、ボトルネックを分析しました」——そう言って出てくる資料は、たいてい工程別の処理量と滞留のグラフです。そして結論は、「梱包工程がボトルネック」「検品で滞留が発生している」。
その分析自体は、倉庫の中で起きていることを正しく捉えている。ただ、一つだけ確認したいことがあります。その分析は、倉庫の中だけを見ていませんか。
・倉庫のデータだけを見ると、なぜ倉庫の中の答えしか出ないのか
・分析の範囲が、そのまま解決策の範囲になってしまう構造
・原因が外にあるとき、データに何が見えていないのか
・決められないことと、検討しないことは違う
倉庫のデータを見れば、倉庫に原因が見つかる
前回は、分析結果をそのまま問題定義にすると打ち手が出てこなくなる、という話をしました。今回はもう一つのズレです。どこまでを分析の対象にするかを決めた時点で、見つかる原因の範囲も決まっています。
倉庫のWMSと作業実績だけを見れば、そこに記録されているのは倉庫の中の出来事だけです。工程ごとの処理量、滞留、人員配置、作業時間。この範囲で原因を探せば、原因は必ず倉庫の中で見つかります。それ以外の場所は、そもそもデータに写っていないからです。
そして出てくる打ち手は、レイアウトの見直し、作業手順の標準化、人員の再配置、設備の導入。どれも倉庫の中で完結する手段です。
実際に原因が倉庫の中にあるなら、これで正しい。問題は、原因が外にあった場合でも、同じ形の結論が出てしまうことです。倉庫の中しか見ていない分析は、「原因は外にあります」とは決して言いません。
出荷が回らない理由は、境界の外にもある
出荷が間に合わない日の原因を、倉庫の外側まで広げて並べてみます。
| どこで起きているか | 何が起きているか | 倉庫の中の分析ではどう見えるか |
|---|---|---|
| 倉庫の中 | 工程間の配置が合っていない、移動と探索が多い | 正しく見える |
| 受注の締め | 締めが遅く、着手できる時間が短い | 「夕方に処理が集中」としか見えない |
| 入荷側 | 入荷が遅れ、出荷の着手が待たされる | 「午前中の生産性が低い」と見える |
| 荷主のルール | 荷主別の個別対応が多く、例外処理が膨らむ | 「作業効率が悪い」と見える |
| 輸送との接続 | 集荷時刻が早く、実質の締めが前倒しになる | 「締め前に間に合っていない」と見える |
右の列を見てください。原因が外にあっても、倉庫のデータには「倉庫の中の問題」として写ります。午前中の生産性が低いのは、現場の立ち上がりが遅いからではなく、入荷が来ていないからかもしれない。しかし倉庫の作業データだけを見ていると、その区別がつきません。
倉庫の中だけを見た分析からは、
倉庫の中の改善策しか出てきません。
これは物流に固有の問題ではない
部門ごとに数字を持ち、部門ごとに改善する——この形をとる組織では、どこでも同じことが起きます。それぞれの部門が自分の範囲で最適を目指し、結果として全体では噛み合わない。
需要側の条件と、供給側の能力を、同じ場で突き合わせる考え方は、製造や小売などでも使われています。販売の計画と、それを満たすための生産・在庫・供給の能力を、別々に決めずに突き合わせる。売る側が決めた条件を作る側が受け取るだけ、という形にしない、という考え方です。
ここから構造だけを借りるなら、要点は一つです。需要の条件を、与件ではなく変数として扱う。いつ注文が確定し、いつまでに出す約束になっているのか——それを固定された前提とせず、検討の対象に含める。
物流に置き換えると、こうなります。受注の締め時刻、出荷の条件、入荷のタイミング、集荷時刻。これらは倉庫の外で決まっていますが、倉庫の中の負荷の形を決めているのは、この外側の条件です。
権限がないことと、検討しないことは違う
ここで、当然の反応があります。「締め時刻は荷主が決めることで、こちらには権限がない」。
そのとおりです。そしてこの記事は、交渉すべきだと言いたいわけではありません。交渉できるかどうかは、取引の条件や関係によってまったく違います。踏み込む話ではありません。
主張はもっと限定的です。権限がなくても、原因がそこにあるなら、分析の範囲には入れておく。
この二つは、結果がまったく違います。
| 状態 | その後どうなるか |
|---|---|
| 最初から分析範囲に入れていない | 原因として認識されない。倉庫の中の改善を続け、効果が出ない理由も分からない |
| 分析範囲に入れ、「自部門では決められない」と記録されている | 原因として特定され、影響量も分かる。判断を上位や社外に持ち込むときの材料になる |
後者の状態になれば、「締めが1時間早ければ、残業は月これだけ減る」という形の話ができます。これは要求ではなく、事実の共有です。データは、権限の異なる相手と対話するための材料になります。そこから先どうするかは、それぞれの関係の中で決まることです。
第6回で、解決策を比較するための軸として「権限」を扱います。そのとき、自部門で決められる手と、上位の判断が要る手と、社外との合意が要る手が、同じ表に並んでいる必要があります。
並んでいない選択肢は、比較されません。この回で境界を広げておくのは、そのためです。
物流で、境界が引きにくい理由
物流で境界を越えた分析が難しい理由の一つが、データの持ち主が分かれていることです。
倉庫の作業実績はWMSに、受注情報は荷主の基幹システムや受注システムに、輸送の情報は配車システムや運送会社側にあります。物理的に一つの流れでも、データは事業者とシステムをまたいで分断されています。
そのため、「入荷が遅れた日は、出荷の残業が増えているのか」という単純な問いですら、答えるのに手間がかかります。二つの記録を、日付と時刻で突き合わせる必要があるからです。そして、突き合わせに手間がかかる問いほど、調べられないままになりがちです。
もう一つは、外の条件がそもそも記録されていないことです。締め時刻も、荷主別の個別ルールも、集荷時刻も、現場では全員が知っています。知っているので、わざわざデータにしていない。しかし記録されていないものは、分析には出てきません。
この判断をするために、最低限どのデータが要るか
原因が境界の内にあるのか外にあるのかを切り分けるために、必要なものを整理します。新しいシステムは要りません。足りないのは、突き合わせられる形の記録です。
| データ | 何を切り分けるために使うか | 最小の始め方 |
|---|---|---|
| 受注の確定時刻 | 着手できる時間がそもそも足りているのか | 荷主別に締め時刻を一覧にするだけでも始められる |
| 入荷の実績時刻 | 午前の生産性低下が、入荷待ちによるものか | 入荷の予定時刻と実績時刻を日次で残す |
| 出荷の締め・集荷時刻 | 実質的な締めが、いつなのか | 便別の集荷時刻を記録する。現場では既知でも記録にない |
| 例外処理の発生件数 | 個別ルールが、どれだけ作業量を押し上げているか | 件数だけでよい。荷主別に分けられるとなお良い |
| 日付・時刻の共通キー | 倉庫の実績と、外側の記録を突き合わせるため | これが最も重要。時刻の粒度が揃っていないと比較できない |
最後の一つが、実務では最大の壁になります。倉庫の実績は分単位、入荷の記録は日単位、受注は締め単位——という具合に粒度が揃っていないと、「入荷が遅れた日」を定義することすらできません。データを突き合わせられる状態にしておくことが、境界を越えた分析の前提になります。
次回は、このシリーズの中核です。現象と問題構造と解決策を分け、同じ「残業が増えた」から複数の正解が分岐することを見ていきます。「生産性が低い」は、そもそも解くべき問題なのでしょうか。
物流データ意思決定シリーズ(全9回)
第2回「何が起きたか」は分かった。「変えたらどうなるか」は分かるか
第3回処理能力は足りているのに、なぜ残業が減らないのか
第4回出荷が回らない原因は、本当に倉庫の中にあるのか(本記事)
第5回「生産性が低い」は、問題ではなく現象である
第6回「あと10人いれば解決する」は、解決策と言えるのか
第7回その線は、限界が来てから引くのか
第8回その解決策は、明日の現場の言葉になっているか
第9回その判断は、次はもっと上手くなるか
入荷の実績、受注の締め、集荷時刻を倉庫の作業実績と突き合わせると、倉庫の中だけでは見えなかった要因が現れます。今あるデータでどこまで突き合わせられるかを、ご一緒に確認できます。
「倉庫の改善を続けているのに、効果が出ない」という段階が、ちょうど入口です。
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