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コラム | 物流データ意思決定シリーズ 第3回 | 2026年9月30日

処理能力は足りているのに、
なぜ残業が減らないのか

物流データ意思決定シリーズ|分析結果を、実行可能な解き方と投資判断につなげる

分析結果と問題定義のズレ

「月の総処理量に対して、うちの能力は足りているはずなんです。それなのに、毎日残業なんですよ」——現場を預かる方から、この話を聞くことがあります。

数字を見ると、確かにそのとおりです。月間の処理量を稼働日数と投入人時で割ると、能力に対して余裕がある。分析結果は「能力不足ではない」と言っています。しかし現実には、週の半分は定時で終わりません。

どちらが間違っているのでしょうか。

この回で扱うこと
・分析結果を、そのまま問題定義にしてしまうと何が起きるか
・「能力不足ではない」という結論から、打ち手が出てこない理由
・余裕がなくなると、なぜ急に回らなくなるのか
・能力ではなく、余力の側から問題を定義し直す

分析は正しい。問題定義が間違っている

結論から言えば、どちらも間違っていません。数字も正しく、現場の実感も正しい。間違っているのは、その数字から引き出した問題の定義です。

「月間の処理量に対して能力は足りている」という分析結果から、多くの会議はこう結論します。「能力不足ではない」。そして、ここで議論が終わります。

この結論の困ったところは、内容が間違っていることではありません。そこから、いかなる打ち手も出てこないことです。

「能力不足ではない」は、正しい分析結果です。
しかし、解くべき問題の定義としては空っぽです。

問題定義が空っぽなので、次に出てくるのは「では現場の効率が悪いのだろう」「意識の問題ではないか」といった、検証できない話になります。あるいは、残業そのものを目標管理して、「今月は減らそう」と申し合わせる。どちらも構造には触れていません。

前回まで、分析と選択の違いを見てきました。今回扱うのは、その手前にあるズレです。分析結果から問題定義を作る段階で、すでに間違えていることがあります。

どこでズレるのか
分析結果:月間では能力が足りている
↓ここでズレる
問題定義:能力不足ではない
↓
打ち手が出てこない
分析結果がそのまま問題定義になるとは限りません

足りていないのは能力ではなく、余力

では、何が起きているのか。

月間で見れば足りている能力も、日別・時間帯別に見ると話が変わります。物量は平らに届きません。週明けに寄る、月末に寄る、特定の荷主の出荷日に寄る。そして倉庫は、月の合計量を処理しているのではなく、その日その時間に届いた量を、その日の締めまでに処理しています。

このとき問題になるのは、能力の総量ではなく、山に対してどれだけの余力があるかです。

見方 出てくる結論 そこから出る打ち手
月間の総量で見る 能力は足りている 出てこない
日別・時間帯別の山で見る 山の日に、余力が不足している 山を平らにする/山の日だけ厚くする/山を別の日に逃がす

同じデータから、問題の定義を変えただけです。それだけで、打ち手の候補が現れます。

ここが今回の要点です。「能力不足か、そうでないか」という問いの立て方そのものが、選択肢を潰していました。実際の構造は「変動に対して余力が足りない」であり、それは能力の増減とは別の問題です。

余裕がなくなると、急に回らなくなる

もう一つ、体感と数字がずれる理由があります。

システムを運用する現場では、処理装置の使用率が高くなるほど、応答時間が急激に悪化することがあります。余裕があるうちは小さな負荷の振れを吸収できますが、余裕がなくなると、わずかな変動でも待ち時間が一気に増えます。つまり、負荷が増えた分だけ、単純に悪化するとは限りません。

病院の病床でも似た話があります。空きが数床あるうちは救急を受けられますが、満床に近づくと、受け入れ可否の判断や調整そのものに時間がかかり、現場は急に回らなくなります。

共通しているのは、余裕が減ると、変動を吸収できなくなるという構造です。平均的な負荷が同じでも、余裕の有無で結果が変わります。

倉庫でも同じことが起きます。人員に余裕があるうちは、多少の物量の振れや、イレギュラーな出荷、機器の一時停止を吸収できます。しかし余力を削り切った状態では、小さな振れがそのまま残業になります。

「稼働率を上げる」が目的になると起きること

余力は、数字の上では無駄に見えます。稼働率や人時生産性だけを指標にすると、余力を削るほど数字は良くなる。

しかし削った先で起きるのは、変動を吸収できなくなることです。指標が改善しているのに現場が苦しくなる、という状態は、たいていここから生まれます。

物流で、これが特に起きやすい理由

変動そのものは、どの業界にもあります。物流に固有なのは、その変動を自分で決められないことです。

倉庫が処理する量は、荷主の受注や出荷条件に強く左右されます。しかも、その日の出荷量が確定するのは受注の締め時間で、締めから出荷までの時間は限られています。

需要が外から与えられ、しかも直前に確定する。この2つが重なるため、余力を持たない限り、変動をその日のうちに吸収する方法が実質的に残業しかなくなります。

そしてもう一つ厄介なのは、この吸収が数字に残らないことです。現場が残業と応援で乗り切ると、翌日の出荷は問題なく完了しています。記録の上では「達成」です。吸収したという事実だけが、どこにも残りません。この点は、第7回で改めて扱います。

問題定義を変えると、選択肢が変わる

「変動に対して余力が足りない」と定義し直すと、検討できる方向が複数出てきます。

余力不足という定義から出てくる方向
山を崩す 変動そのものを小さくできないか 締め時間の調整、出荷日の分散、前倒しできる作業の切り出し
山に合わせる 山の日・山の時間帯だけ、厚くできないか 時間帯別のシフト設計、工程間の応援、スポットの投入
山を逃がす その日のうちに処理しなくてよいものはないか 出荷条件の見直し、翌日に回せる作業の切り分け
山を予測する 山が来ることを、前もって知れないか 受注の傾向から翌日・翌週の負荷を見込み、配置を先に決める

どれが正解かは、まだ分かりません。それは第5回以降で扱います。ここで重要なのは、問題定義を変えただけで、検討対象が「増員か、現場の頑張りか」から広がったことです。

逆に言えば、「能力不足ではない」という定義のままでは、この4つはどれも議題に上がりません。問題の定義は、その後に検討できる選択肢の範囲を決めてしまいます。

この判断をするために、最低限どのデータが要るか

「余力が足りているか」を問える状態にするために、必要なものを整理します。

データ 何を見るために使うか 最小の始め方
日別の処理量 変動の大きさ。月の平均と、物量が多い日の差がどれだけあるか 直近3か月ぶんを日単位で並べるだけでよい
時間帯別の処理量と投入人時 1日の中のどこに山があり、そこに人が合っているか 1時間単位。締め前の数時間だけでも見えるものがある
締め時刻と、確定タイミング いつ物量が分かり、いつまでに終える必要があるか 荷主別に整理する。現場では既知でも、記録にないことが多い
残業・応援の発生記録 どの日に、どれだけ吸収したのか 日次で時間数を残す。これがないと吸収が見えない

このうち、最初の一つ——日別の処理量を、月の平均と並べて見る——だけでも、議論は変わります。平均と山の差が2倍あるなら、「月間では足りている」という一文は、その日の現実をほとんど説明していないことになります。

次回は、問題定義のもう一つのズレを扱います。原因を倉庫の中に探せば、倉庫の中の答えしか出てきません。出荷が回らない原因は、本当に倉庫の中にあるのでしょうか。

物流データ意思決定シリーズ(全9回)

第1回分析は終わった。それで、明日から何を変えるのか
第2回「何が起きたか」は分かった。「変えたらどうなるか」は分かるか
第3回処理能力は足りているのに、なぜ残業が減らないのか(本記事)
第4回出荷が回らない原因は、本当に倉庫の中にあるのか
第5回「生産性が低い」は、問題ではなく現象である
第6回「あと10人いれば解決する」は、解決策と言えるのか
第7回その線は、限界が来てから引くのか
第8回その解決策は、明日の現場の言葉になっているか
第9回その判断は、次はもっと上手くなるか
山の日に、どれだけ余力が足りていないかを確かめられます

日別・時間帯別の物量と投入人時を並べると、月間の平均では見えない不足が現れます。今あるWMSや勤怠のデータで、どこまで見えるかをご一緒に確認できます。

「月間では足りているはずなのに」という段階が、ちょうど入口です。

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