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コラム | 物流データ意思決定シリーズ 第2回 | 2026年9月29日

「何が起きたか」は分かった。
「変えたらどうなるか」は分かるか

物流データ意思決定シリーズ|分析結果を、実行可能な解き方と投資判断につなげる

記述と比較は別の仕事

「先月の数字は、これで全部揃っています」——月次の会議で、資料を一通り確認し終える。工程別の生産性、残業時間、遅延件数、前年同月との比較。全部そろっています。

そのあと、誰かが言います。「で、来月はどうしますか」。ここから先に使える資料は、その束の中に一枚もありません。

この回で扱うこと
・分析が答えるのは「何が起きたか」までである
・打ち手を選ぶには、案と案を比べる必要がある
・ダッシュボードには、比較する相手が出てこない
・「このままだとどうなるか」から始める

記述と比較は、別の仕事です

前回、分析は正しいのに打ち手が決まらない、という話をしました。今回はその理由を、もう少し具体的に見ていきます。

分析の資料に書かれているのは、起きたことの記述です。生産性は前月比で下がった、梱包工程で滞留が出た、月末に残業が集中した。すべて事実であり、正確です。

一方、打ち手を決めるという作業は、性質が違います。複数の案を並べて、どれがましかを比べる作業です。

案A:梱包に2名を応援で回す

案B:シフトの開始時刻を1時間前倒しする

案C:締めの近い荷主から先に処理する

案D:何もしない

この4つを比べるには、それぞれについて「そうしたらどうなるか」が要ります。しかし、実績の資料に書かれているのは、実際に起きた1つの結果だけです。案Aを採った場合の姿も、何もしなかった場合の姿も、そこには載っていません。

分析は、起きたことを1つ記述します。
選択には、起きなかった場合を含めて、比べる相手が要ります。

これが、資料が揃っているのに議論が進まない理由です。資料の不足ではなく、資料の種類が違います。記述の資料をどれだけ増やしても、比較の材料にはなりません。

ダッシュボードは、比較する相手を出さない

多くの現場のダッシュボードは、よくできています。当日の処理量、工程別の進捗、時間帯別の生産性。今どうなっているかが、すぐに分かります。

ただ、そこに表示されているのは現在の状態と、過去の実績です。次の2つは、たいてい出てきません。

ダッシュボードに出てこない2つ
このまま このままいくと、何時に終わるのか 現在のペースと残作業から、着地がどうなるか。間に合うのか、間に合わないのか
変えたら 条件を変えたら、それがどう変わるのか 2名を回したら、シフトを前倒ししたら、順序を変えたら——それぞれの着地

この2つがないと、判断は「今の数字が良いか悪いか」の議論で止まります。そして良し悪しの議論は、たいてい結論が出ません。良くないことは全員が分かっていて、ではどうするかで分かれるからです。

議論が止まる場所
実績:何が起きたか
↓
このままだとどうなるか
↓
条件を変えたらどうなるか
↓
案を比べて決める
真ん中の2つがないまま、実績から結論へ飛ぼうとしています

予測して、案を比べて、決める

この3つを一続きの業務として扱っている分野があります。

システムの運用では、利用量の推移から先の負荷を見込み、足りなくなる時期を割り出し、増強するかどうかを判断する仕事があります。ここで作られるのは実績の報告書ではなく、「何もしなければこうなる」と「手を打った場合はこうなる」を並べた資料です。

コールセンターの要員計画も同じ形をとります。入電量を見込み、必要な人数を算出し、複数のシフト案を作って比べ、決める。予測と、案の比較と、決定が、一本の業務としてつながっています。

借りる構造は単純です。意思決定のための資料には、実績だけでなく、複数の見込みを並べる必要があります。

予測の精度は、最初から高くなくてよい

「予測というほど精密なものは出せない」と感じるかもしれません。しかし、ここで必要なのは当てることではなく、案と案の差を見ることです。

残作業量を現在のペースで割った粗い見込みでも、「このままだと19時、2名回せば17時半」という差は出ます。どちらの数字も正確ではないかもしれませんが、差の向きと大きさが分かれば、判断はできます。

物流に置き換えると

物流の現場で、この「並べる」がどう効くのかを見てみます。

問い 実績の資料が答えられること 判断に必要なこと
今日は間に合うのか 今の処理量と、昨日までの実績 残作業と現在のペースからの、完了見込み時刻
応援を出すべきか どの工程が遅れているか 2名回した場合と、回さない場合の着地の差
来月の体制はどうするか 先月の生産性と残業時間 来月の物量見込みと、体制案ごとの必要人時
この改善は効いたのか 実施後の数字 実施しなかった場合に近い条件の日との比較

右の列は、どれも実際には起きなかったことを含んでいます。「2名を回さなかった場合」は、回した日には存在しません。しかし、それを見積もらないかぎり、回したことが正しかったのかも分かりません。

判断とは、結局のところ、起きなかった側と比べる作業です。その比べる相手を、どうやって用意するか。それが、分析の次に必要な工程になります。

物流で、これが難しい理由

一つは、その日の物量が直前まで確定しないことです。受注の締めが夕方であれば、それまでは処理すべき総量が分かりません。見込みを立てる前提そのものが、当日の途中まで揺れています。

ただし、確定しないから見込めない、というわけでもありません。曜日や月内の位置による傾向、荷主ごとの出荷パターン、前日までの受注の入り方。粗い見込みを立てる材料は、実績の中にあります。

もう一つは、実績の集計が、その日のうちに出てこないことです。翌日に確定する仕組みでは、「このままだと何時に終わるか」を当日に出せません。判断に使いたいタイミングと、データが揃うタイミングがずれています。

この2つがあるため、物流では「現在の状態を見る」ところまでで止まりやすい構造があります。止まっているのは意識の問題ではなく、見込みを立てる材料と、それが出てくるタイミングの問題です。

この判断をするために、最低限どのデータが要るか

「このままだとどうなるか」を出せる状態にするために、必要なものを整理します。新しい仕組みから始める必要はありません。

データ 何に使うか 最小の始め方
残作業量 あとどれだけ残っているか 指示件数と完了件数の差。主要工程だけでよい
現在の処理ペース このままだと何時に終わるか 直近1時間の完了件数で割る。表計算ソフトで始められる
工程別の標準的な処理速度 人を動かしたら、どれだけ変わるか 過去の実績から工程別の人時あたり処理量を出す
物量の傾向 来週・来月はどれくらいになりそうか 曜日別・月内の位置別に、過去1年を並べる
施策の実施記録 効果を後から比べるため 日報に一行。「◯時に検品から2名」で足りる

最初の2つが揃うだけで、資料の性格が変わります。「昨日はこうでした」から、「このままだと今日はこうなります」へ。後者は、その時点でまだ変えられる話です。

次回からは、その見込みを立てる前の段階に戻ります。そもそも、解くべき問題を正しく捉えられているのか。処理能力は足りているはずなのに、なぜ残業が減らないのでしょうか。

物流データ意思決定シリーズ(全9回)

第1回分析は終わった。それで、明日から何を変えるのか
第2回「何が起きたか」は分かった。「変えたらどうなるか」は分かるか(本記事)
第3回処理能力は足りているのに、なぜ残業が減らないのか
第4回出荷が回らない原因は、本当に倉庫の中にあるのか
第5回「生産性が低い」は、問題ではなく現象である
第6回「あと10人いれば解決する」は、解決策と言えるのか
第7回その線は、限界が来てから引くのか
第8回その解決策は、明日の現場の言葉になっているか
第9回その判断は、次はもっと上手くなるか
「このままだとどうなるか」を、今あるデータで出せるか

残作業量と処理ペースから完了見込みを出し、条件を変えた場合と並べて比べる。既存のWMSや設備のデータで、どこまで見込みが立てられるかをご一緒に確認できます。

「実績は揃っているが、次の議論に使えない」という段階が、ちょうど入口です。

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