「何が起きたか」は分かった。
「変えたらどうなるか」は分かるか
物流データ意思決定シリーズ|分析結果を、実行可能な解き方と投資判断につなげる
「先月の数字は、これで全部揃っています」——月次の会議で、資料を一通り確認し終える。工程別の生産性、残業時間、遅延件数、前年同月との比較。全部そろっています。
そのあと、誰かが言います。「で、来月はどうしますか」。ここから先に使える資料は、その束の中に一枚もありません。
・分析が答えるのは「何が起きたか」までである
・打ち手を選ぶには、案と案を比べる必要がある
・ダッシュボードには、比較する相手が出てこない
・「このままだとどうなるか」から始める
記述と比較は、別の仕事です
前回、分析は正しいのに打ち手が決まらない、という話をしました。今回はその理由を、もう少し具体的に見ていきます。
分析の資料に書かれているのは、起きたことの記述です。生産性は前月比で下がった、梱包工程で滞留が出た、月末に残業が集中した。すべて事実であり、正確です。
一方、打ち手を決めるという作業は、性質が違います。複数の案を並べて、どれがましかを比べる作業です。
案A:梱包に2名を応援で回す
案B:シフトの開始時刻を1時間前倒しする
案C:締めの近い荷主から先に処理する
案D:何もしない
この4つを比べるには、それぞれについて「そうしたらどうなるか」が要ります。しかし、実績の資料に書かれているのは、実際に起きた1つの結果だけです。案Aを採った場合の姿も、何もしなかった場合の姿も、そこには載っていません。
選択には、起きなかった場合を含めて、比べる相手が要ります。
これが、資料が揃っているのに議論が進まない理由です。資料の不足ではなく、資料の種類が違います。記述の資料をどれだけ増やしても、比較の材料にはなりません。
ダッシュボードは、比較する相手を出さない
多くの現場のダッシュボードは、よくできています。当日の処理量、工程別の進捗、時間帯別の生産性。今どうなっているかが、すぐに分かります。
ただ、そこに表示されているのは現在の状態と、過去の実績です。次の2つは、たいてい出てきません。
この2つがないと、判断は「今の数字が良いか悪いか」の議論で止まります。そして良し悪しの議論は、たいてい結論が出ません。良くないことは全員が分かっていて、ではどうするかで分かれるからです。
予測して、案を比べて、決める
この3つを一続きの業務として扱っている分野があります。
システムの運用では、利用量の推移から先の負荷を見込み、足りなくなる時期を割り出し、増強するかどうかを判断する仕事があります。ここで作られるのは実績の報告書ではなく、「何もしなければこうなる」と「手を打った場合はこうなる」を並べた資料です。
コールセンターの要員計画も同じ形をとります。入電量を見込み、必要な人数を算出し、複数のシフト案を作って比べ、決める。予測と、案の比較と、決定が、一本の業務としてつながっています。
借りる構造は単純です。意思決定のための資料には、実績だけでなく、複数の見込みを並べる必要があります。
「予測というほど精密なものは出せない」と感じるかもしれません。しかし、ここで必要なのは当てることではなく、案と案の差を見ることです。
残作業量を現在のペースで割った粗い見込みでも、「このままだと19時、2名回せば17時半」という差は出ます。どちらの数字も正確ではないかもしれませんが、差の向きと大きさが分かれば、判断はできます。
物流に置き換えると
物流の現場で、この「並べる」がどう効くのかを見てみます。
| 問い | 実績の資料が答えられること | 判断に必要なこと |
|---|---|---|
| 今日は間に合うのか | 今の処理量と、昨日までの実績 | 残作業と現在のペースからの、完了見込み時刻 |
| 応援を出すべきか | どの工程が遅れているか | 2名回した場合と、回さない場合の着地の差 |
| 来月の体制はどうするか | 先月の生産性と残業時間 | 来月の物量見込みと、体制案ごとの必要人時 |
| この改善は効いたのか | 実施後の数字 | 実施しなかった場合に近い条件の日との比較 |
右の列は、どれも実際には起きなかったことを含んでいます。「2名を回さなかった場合」は、回した日には存在しません。しかし、それを見積もらないかぎり、回したことが正しかったのかも分かりません。
判断とは、結局のところ、起きなかった側と比べる作業です。その比べる相手を、どうやって用意するか。それが、分析の次に必要な工程になります。
物流で、これが難しい理由
一つは、その日の物量が直前まで確定しないことです。受注の締めが夕方であれば、それまでは処理すべき総量が分かりません。見込みを立てる前提そのものが、当日の途中まで揺れています。
ただし、確定しないから見込めない、というわけでもありません。曜日や月内の位置による傾向、荷主ごとの出荷パターン、前日までの受注の入り方。粗い見込みを立てる材料は、実績の中にあります。
もう一つは、実績の集計が、その日のうちに出てこないことです。翌日に確定する仕組みでは、「このままだと何時に終わるか」を当日に出せません。判断に使いたいタイミングと、データが揃うタイミングがずれています。
この2つがあるため、物流では「現在の状態を見る」ところまでで止まりやすい構造があります。止まっているのは意識の問題ではなく、見込みを立てる材料と、それが出てくるタイミングの問題です。
この判断をするために、最低限どのデータが要るか
「このままだとどうなるか」を出せる状態にするために、必要なものを整理します。新しい仕組みから始める必要はありません。
| データ | 何に使うか | 最小の始め方 |
|---|---|---|
| 残作業量 | あとどれだけ残っているか | 指示件数と完了件数の差。主要工程だけでよい |
| 現在の処理ペース | このままだと何時に終わるか | 直近1時間の完了件数で割る。表計算ソフトで始められる |
| 工程別の標準的な処理速度 | 人を動かしたら、どれだけ変わるか | 過去の実績から工程別の人時あたり処理量を出す |
| 物量の傾向 | 来週・来月はどれくらいになりそうか | 曜日別・月内の位置別に、過去1年を並べる |
| 施策の実施記録 | 効果を後から比べるため | 日報に一行。「◯時に検品から2名」で足りる |
最初の2つが揃うだけで、資料の性格が変わります。「昨日はこうでした」から、「このままだと今日はこうなります」へ。後者は、その時点でまだ変えられる話です。
次回からは、その見込みを立てる前の段階に戻ります。そもそも、解くべき問題を正しく捉えられているのか。処理能力は足りているはずなのに、なぜ残業が減らないのでしょうか。
物流データ意思決定シリーズ(全9回)
第2回「何が起きたか」は分かった。「変えたらどうなるか」は分かるか(本記事)
第3回処理能力は足りているのに、なぜ残業が減らないのか
第4回出荷が回らない原因は、本当に倉庫の中にあるのか
第5回「生産性が低い」は、問題ではなく現象である
第6回「あと10人いれば解決する」は、解決策と言えるのか
第7回その線は、限界が来てから引くのか
第8回その解決策は、明日の現場の言葉になっているか
第9回その判断は、次はもっと上手くなるか
残作業量と処理ペースから完了見込みを出し、条件を変えた場合と並べて比べる。既存のWMSや設備のデータで、どこまで見込みが立てられるかをご一緒に確認できます。
「実績は揃っているが、次の議論に使えない」という段階が、ちょうど入口です。
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