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コラム | 物流を、数字で考える | 2026年10月21日

KPIを決めたのに、
使われないのはなぜか

物流を、数字で考える|その課題、どの数字を見れば判断できるのか

物流センターのKPIを表示したダッシュボード

「KPIは決めました。生産性、誤出荷率、出荷遅延率。ダッシュボードもあって、月次の会議で毎回読み上げています。でも、それで何かが変わったかと言われると……」

KPIを設定することは、多くの物流センターで当たり前になりました。指標を決め、目標値を置き、毎月の数字を報告する。仕組みとしては整っています。それなのに、数字を見たことで現場の動きが変わった、という実感は持ちにくい。

そして、こうした状況でよく出てくるのは、「KPIの選び方が悪いのではないか」という声です。

この記事で扱うこと
・KPIがあるのに判断に使われないとき、何が起きているのか
・KPIが判断に使える状態かを確かめる5つの観点
・KPIが機能しない理由は、指標の選び方より「粒度と前提条件」にあることが多い
・指標を入れ替える前に、確かめておきたいこと

よくある打ち手:KPIを見直す、指標を増やす

KPIが使われないとき、よく検討されるのは、指標そのものの見直しです。いまの指標は現場の実態に合っていない、もっと現場の努力が反映される指標にすべきだ、あるいは、見るべき指標がまだ足りない、という考え方です。

実際に、事業の中身が変わったのに指標が昔のまま、という状況なら、指標の見直しには意味があります。何を測るかは、何を大切にするかの表明でもあるからです。

ただ、指標を入れ替えても、同じように使われない状態が続くことがあります。入れ替える前に、確かめておきたいことがあります。

その打ち手が外れるとき

ある物流センターでは、月次の会議で「今月は人時生産性が前月比で改善しました」と報告されました。現場の取り組みが成果につながった、という受け止め方で、会議はそのまま次の議題に移りました。

ところが後になって、その月は出荷物量が前月より2割近く減っていたことが分かりました。物量が減ったことで人員配置に余裕が生まれ、繁忙時の応援や手待ちの出方が変わっていた可能性があります。生産性の数字が動いた理由は、現場のやり方の変化だけではなかった可能性がありました。KPIの報告には、物量も人員も稼働時間も、併記されていませんでした。

生産性が改善したと報告されていた。
実は、その月は物量が2割近く減っていた。前提条件が併記されていなかった。

指標の選び方は間違っていませんでした。人時生産性は、倉庫の状態を見るうえで基本となる指標です。問題は、その数字が、どんな条件のもとで出たものなのかが分からなかったことにあります。条件が分からなければ、良くなったのか悪くなったのかも、次に何をすべきかも判断できません。

では、何を見るか:KPIが使える状態かを確かめる5つの数字

ここで挙げる5つは、KPIそのものを評価するための数字というより、選んだKPIが、判断に使える状態になっているかを確かめるための5つの観点です。どの指標を選ぶべきかを決めるものではありません。

1 KPIの更新頻度

定義そのKPIが、実際に更新されている間隔
見方決められた更新間隔ではなく、実際に新しい数字が出てくる間隔を確かめる
分かることそのKPIで、どの時間軸の判断ができるか

月次で更新されるKPIは、月単位の判断には使えますが、日々の配置や応援の判断には使えません。現場の判断は日単位、時間単位で動いています。KPIの更新頻度と、使いたい判断の時間軸がずれていれば、KPIは「振り返りの数字」にはなっても「判断の材料」にはなりにくくなります。

2 粒度

定義KPIが、どの単位で集計されているか
見方センター全体の1つの数字か、工程別・時間帯別・荷主別に分けて見られるかを確かめる
分かること数字から、打ち手の場所を特定できるか

センター全体の生産性が5%下がったと分かっても、それだけではどこに手を打てばよいかは分かりません。ピッキングが落ちたのか、梱包が落ちたのか、午前なのか午後なのか。「人が足りない」の前に、確かめておきたい4つの数字や出荷が終わらない原因は、人不足とは限らないで見てきたように、全体の平均値は、打ち手に変換しにくい数字です。

3 目標値の根拠

定義そのKPIの目標値が、どのように決まったか
見方過去の実績から出したのか、他拠点との比較か、予算から逆算したのか、を確かめる
分かること達成・未達を、どう解釈すればよいか

「生産性120個/人時」という目標があっても、その数字がどこから来たのかが分からなければ、達成しても未達でも、その意味を読み取れません。昨年の平均から決めたのか、最も調子の良かった月を基準にしたのか、予算上の人件費から逆算したのか。根拠のない目標は、達成も未達も解釈しにくい数字になります。

4 前提条件の記録の有無

定義KPIと一緒に、物量・人員・稼働時間などの条件が記録されているか
見方KPIの報告や画面に、その数字が出たときの条件が併記されているかを確かめる
分かること数字の変化が、成果なのか、条件の変化なのか

冒頭の例がこれにあたります。物量が2割減った月の生産性の改善は、成果とは言い切れません。逆に、物量が大きく増えた月に生産性が下がっても、それは失敗とは限りません。KPIの数字は、前提条件と並べて初めて、良かったのか悪かったのかが読めるようになります。

5 見ている人の数

定義そのKPIを、定期的に開いて見ている人の数
見方ダッシュボードの閲覧記録や、レポートの配布先と実際の利用状況を確かめる
分かることそのKPIが、実際に使われているか

ダッシュボードを作ったあと、実際に誰が、どれくらいの頻度で開いているかは、意外と確かめられていません。会議の前日に担当者が開くだけ、ということもあります。誰も見ていないKPIは、判断の材料としては機能していません。そしてこの数字は、1〜4の結果でもあります。更新が遅く、粒度が粗く、根拠も前提も分からない数字は、自然と見られなくなっていきます。

KPIが機能しない理由は、選び方より「粒度と前提条件」にあることが多い

5つの数字を並べると、KPIが使われない理由が、指標の選び方とは別のところにあることが見えてきます。

KPIが判断に使えるまでに必要なこと
時間が合う 判断したいタイミングで、数字が新しくなっている 更新頻度で確かめる
場所が分かる 数字から、どこに手を打てばよいかが分かる 粒度で確かめる
意味が読める 数字が良いのか悪いのか、なぜそうなったのかが分かる 目標値の根拠と、前提条件の記録で確かめる
使われている 実際に、誰かが定期的に見ている 見ている人の数で確かめる

この4つのどこかが欠けていると、指標をどれだけ正しく選んでも、KPIは判断に使われにくくなります。指標を入れ替える前に、いまの指標がこの4つを満たしているかを確かめるほうが、近道になることがあります。

「測ること」と「判断に使えること」は別

KPIを決めて数字を出すところまでは、仕組みを作れば実現できます。しかし、その数字を見て「次に何をするか」の判断材料として使えるかどうかは、数字の更新頻度・粒度・根拠・前提条件で決まります。物流DXを進めたのに、現場が変わらないのはなぜかで扱った「可視化」と「判断」のあいだの距離は、KPIにもそのまま当てはまります。

数字で試してみる

先月と今月の処理量と投入人時を入れると、人時生産性の変化を、物量の変化と並べて表示します。初期値は冒頭の例に近い状態にしてあります。生産性の数字だけを見たときと、物量と並べて見たときで、読み方は変わるでしょうか。手元の数字に置き換えて確かめてみてください。

処理量(個)投入人時(人時)
先月
今月
処理量は、生産性の分子に使っている単位(ピース・行・ケースなど)で入れてください。
人時生産性の変化
―
 
物量の変化
―
 
投入人時の変化
―
 
 
処理量は0以上、投入人時は0より大きい数字を入れてください。
計算の前提
人時生産性 = 処理量 ÷ 投入人時
変化率 = 今月 ÷ 先月 − 1
この計算で分かるのは、「生産性の変化を、物量の変化と並べて読めるか」まで

物量の変化は、生産性に影響する前提条件の一つにすぎません。実際にKPIを読むときは、ほかの条件も合わせて確かめたいところです。

  • 作業の中身の変化同じ物量でも、1オーダーあたりの行数や、商品の大きさが変われば、生産性は動きます。
  • 人員構成の変化新人の比率や、応援の受け入れが多い月は、同じ人時でも処理量が変わります。
  • 稼働日数や設備の状態稼働日が少ない月、設備の停止が多かった月は、比べる前提が揃っていません。

ここまで見て、打ち手を考えられる

KPIが使われないとき、問題が指標の選び方にあることもあります。ただ、多くの場合、先に確かめておきたいのは、その指標が、判断に使える形で届いているかどうかです。

更新が判断のタイミングに合っているか。打ち手の場所が分かる粒度になっているか。目標値の根拠と、数字が出たときの前提条件が分かるか。そして、実際に誰かが見ているか。これらを確かめて初めて、指標を入れ替えるべきなのか、いまの指標の出し方を変えるべきなのかを考えられるようになります。

「どのKPIを選ぶか」を問う前に、
「いまのKPIは、判断に使える形で届いているか」を確かめる。

測ることと、判断に使えることは別です。

数字を、判断に変えるところへ

KPIの数字から、問題の構造を分け、実行できる解き方を選ぶまでの考え方は、物流データ意思決定シリーズで扱っています。

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