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コラム | 物流を、数字で考える | 2026年10月14日

「人が足りない」の前に、
確かめておきたい4つの数字

物流を、数字で考える|その課題、どの数字を見れば判断できるのか

人手不足に悩む倉庫の出荷現場

「とにかく人が足りない。あと3人いれば回るんです」

倉庫の現場で、これほど実感のこもった言葉はないかもしれません。毎日のように締め時刻ぎりぎりまで作業が続き、残業が減らず、休みの調整もままならない。現場管理者が「人が足りない」と言うとき、それは誇張ではなく、目の前で起きていることの率直な表現です。

ただ、その「足りない」は、1日中なのでしょうか。それとも、ある時間帯、ある工程だけなのでしょうか。

この記事で扱うこと
・増員しても状況が変わらないとき、何が起きているのか
・「人が足りない」を判断するために見ておきたい4つの数字
・4つを重ねると、不足の正体がどう分かれてくるか
・増員・配置変更・自動化を検討する前に、確かめておきたいこと

よくある打ち手:人を増やす

人が足りないなら、人を増やす。採用を強化する、派遣の人数を増やす、他拠点から応援を呼ぶ。もっとも直接的で、分かりやすい打ち手です。

実際に、物量が増え続けていて、どの時間帯も、どの工程も手が回っていないなら、増員は正しい判断です。人でしか対応できない作業は倉庫に多く残っていますし、採用が難しい時代だからこそ、早めに手を打つことには意味があります。

ただ、増員は時間もコストもかかる打ち手です。採用しても戦力になるまでには時間がかかり、一度増やした人員は簡単には減らせません。だからこそ、踏み切る前に一つ確かめておきたいことがあります。

その打ち手が外れるとき

ある物流センターでは、出荷の完了時刻が毎日のように遅れ、恒常的に残業が発生していました。現場の声は一致して「人が足りない」。そこで派遣スタッフを2名増やしました。

ところが、完了時刻はほとんど変わりませんでした。残業も減らない。むしろ、増えた2名が手持ち無沙汰にしている時間帯があることに、現場管理者自身が気づき始めました。

そこで、1日の出荷量を1時間ごとに並べてみると、様子が見えてきました。物量が集中していたのは、午前10時から12時の2時間でした。この2時間に処理しきれなかった分が午後に持ち越され、夕方まで尾を引いていたのです。午後の時間帯だけを見れば、人員はむしろ足りていました。

1日を通して人が足りないと思っていた。
実は、問題だったのは午前中の2時間だった。

この場合に必要だったのは、1日を通した増員ではなく、その2時間に人を寄せることでした。増やした2名を終日配置しても、ピークの2時間に効くのは2名分だけです。「人が足りない」という実感は正しくても、「何人足りないのか」「いつ足りないのか」までは、実感だけでは分かりません。

では、何を見るか:確かめておきたい4つの数字

「人が足りない」を判断するために、まず見ておきたい数字は4つです。どれも、WMSの実績データや日報、勤怠記録など、現場ですでに持っているデータを組み合わせることで確認できるものです。

1 時間帯別の出荷量

定義1日を一定の時間単位に区切り、それぞれの時間帯に処理した(または処理すべきだった)出荷量
見方時間帯ごとの物量を横に並べ、山と谷の位置と高さを見る
分かること人が足りないのは1日中なのか、特定の時間帯だけなのか

1日の総出荷量が同じでも、それが1日に均等に流れてくるのか、ある時間帯に集中するのかで、必要な人員はまったく変わります。「1日1万件を10人で処理する」という計算は、物量が均等に流れてくることを前提にしています。実際の現場で、そうなることはほとんどありません。

WMSに残っている出荷実績の登録時刻を時間帯ごとに集計すると、まずは物量の山谷を捉える手がかりになります。

2 工程別の人時生産性

定義工程ごとの処理量 ÷ その工程に投入した人時(人数 × 時間)
見方ピッキング・検品・梱包などの工程ごとに算出し、横に並べて比べる
分かることどの工程が全体の足を引っ張っているか

センター全体の生産性を1つの数字で見ていると、工程ごとの差は平均の中に消えてしまいます。ピッキングは十分な速度で進んでいるのに、梱包だけが追いついていない、ということは珍しくありません。

この場合、単純に「人が足りない」というより、「梱包工程の処理能力」が全体の制約になっている可能性があります。全体に人を足しても、足した人がピッキングに入れば、状況は変わりません。

3 工程間の待ち時間

定義前の工程が完了してから、次の工程が着手するまでの時間
見方オーダー単位や時間帯単位で、工程ごとの完了時刻と次工程の着手時刻の差を並べる
分かること原因が「人」ではなく、工程間の滞留にあるケース

作業者が手を止めて待っている時間があるなら、その人は「足りない人」ではありません。前の工程から仕事が流れてこないために、働けない状態にあるだけです。

現場では、待っている人がいる一方で、別の場所では人が足りないと感じる、ということが同時に起きます。この状態で人を足すと、待っている人がさらに増えるだけになりかねません。

待ち時間は、WMSでは記録対象になっていないことが多い数字です。まずは、工程ごとの完了登録と着手登録の時刻が残っているかを確認するところから始めます。

4 欠員が出た日の実績

定義予定人員を下回った日の、出荷量と完了時刻
見方物量が同程度の日どうしで、人員が多い日と少ない日の完了時刻を比べる
分かること人数を増やせば、出荷能力は比例して増えるのか

増員の効果を事前に確かめるのは難しいことです。ただ、その逆——人が少なかった日——は、多くの現場で自然に起きています。急な欠勤や休暇が重なった日です。

人員が2名少なかった日に、完了時刻がどれだけ遅れたか。物量や作業条件が近い日と比べて遅れがほとんどなかったなら、2名増やしても完了時刻はそれほど早まらない可能性があります。逆に、1名欠けただけで大きく遅れたなら、人数が効いている工程があるということです。「人が少なかった日」は、増員したときの影響を考えるための、手元にある比較材料です。

4つの数字を重ねて見る

4つの数字は、1つずつ見ても意味がありますが、重ねて見ることで、「人が足りない」の中身が分かれてきます。

「人が足りない」の中身を分ける
人数の不足 どの時間帯も、どの工程も手が回っていない 欠員の日には大きく遅れる。待ち時間はほとんどない
配置の偏り 特定の時間帯・工程にだけ負荷が集中している 時間帯別の出荷量に大きな山がある。工程別の生産性に差がある
工程間の滞留 人はいるが、次の工程へ仕事が流れていない 工程間の待ち時間が長い。人数を変えても完了時刻が動かない

もちろん、実際の現場では3つがきれいに分かれるわけではありません。人数の不足も、配置の偏りも、工程間の滞留も、少しずつ重なっていることのほうが普通です。ただ、どれがいちばん大きいのかが分かるだけで、次に検討すべき打ち手の順番が変わります。

数字を見るときの注意

4つの数字を見るときに、特別な分析手法は要りません。ただ、いくつか気をつけておきたいことがあります。

注意点 理由
1日だけで判断しない 特定の日の山谷は、その日だけの事情かもしれない。少なくとも数週間分、曜日ごとに並べて傾向を見る
物量を揃えて比べる 欠員の日と通常の日を比べるときは、物量が近い日どうしで比べる。物量が違えば、完了時刻の差は人数のせいとは限らない
平均だけで見ない 平均は山と谷を打ち消し合う。最大値と、山の続く時間の長さを合わせて見る
記録の時刻を疑う 実績の登録時刻が、実際の作業時刻とずれていることがある。まとめて登録する運用なら、その分を差し引いて読む

ここまで見て、打ち手を考えられる

「人が足りない」という現場の実感は、多くの場合正しいものです。ただ、その実感だけでは、問題が「人数の不足」なのか、「配置の偏り」なのか、「工程間の滞留」なのかは区別できません。

4つの数字を見て初めて、増員を検討すべきなのか、配置の変更で対応できるのか、工程の流れを見直すべきなのか、あるいは自動化を考えるべきなのか——という話ができるようになります。どれを選ぶべきかは現場によって違います。ただ、どれを選ぶにしても、まずはこの4つの数字を手がかりに、問題がどこにあるのかを確かめることができます。

「あと何人いれば回るか」を問う前に、
「いつ、どこで、何が足りていないのか」を数字で確かめる。

それだけで、増員という一つの答えに向かっていた議論に、配置と工程間の流れという別の選択肢が加わります。

数字で試してみる

手元の物量・人員・生産性・稼働時間を入れると、1人増やしたときの理論上の処理能力が出ます。まずはこの理論値を出してみてください。

理論上の処理能力と、実際の処理量に差があるとしたら、その差はどこから来るのか。ここまで見てきた4つの数字を手がかりにすると、その原因を考えやすくなります。そこが、数字で考える入口です。

個
1日に処理すべき出荷量(ピース・行・ケースなど、生産性と同じ単位で)
人
その作業に投入している人数
個/人時
1人が1時間あたりに処理できる量
時間
定時内で作業できる時間(休憩を除く)
現在の処理能力
―
 
1人増やした場合
―
 
定時内に終わる人数
―
 
 
すべての項目に、0より大きい数字を入れてください。
ただし、実際の処理能力は、この理論値どおりになるとは限りません

上の計算は、物量が1日を通して均等に流れてくることと、追加した人員がそのまま処理能力の向上につながることを前提にしています。実際の現場では、次のような理由で理論値とずれます。

  • 時間帯による山谷がある物量が午前の2時間に集中しているなら、終日1人増やしても、その2時間に効くのは1人分だけです。
  • ボトルネックになっている工程がある梱包が詰まっているのに、増やした人がピッキングに入れば、全体の完了時刻は変わりません。
  • 工程間で待ちが発生している前工程から仕事が流れてこなければ、人を足しても待つ人が増えるだけです。
  • 増やした人がすぐ同じ速度で働けるとは限らない習熟までの期間は、生産性が平均を下回ります。

計算の前提

処理能力 = 人員 × 人時生産性 × 稼働時間
所要時間 = 物量 ÷(人員 × 人時生産性)
定時内に終わる人数 = 物量 ÷(人時生産性 × 稼働時間)を切り上げ