出荷が終わらない原因は、
人不足とは限らない
物流を、数字で考える|その課題、どの数字を見れば判断できるのか
「今日も締めに間に合わなかった。ピッキングが遅いんですよ。あそこにもう少し人がいれば」
出荷が終わらない日が続くと、現場ではたいてい「どこが遅いのか」の見当がついています。目の前で作業が滞っている工程があり、その工程の前には処理を待つ荷物が並んでいる。人を足すなら、まずそこだと考えるのは自然なことです。
ただ、目の前で遅れて見える工程が、遅れの起点だとは限りません。
・人を足しても出荷の完了時刻が変わらないとき、何が起きているのか
・「終わらない」を分解するために見ておきたい4つの数字
・遅れの起点を、工程・時刻・滞留の3つの軸で捉える
・どこに手を打つかを考える前に、確かめておきたいこと
よくある打ち手:遅れている工程に人を足す
出荷が締め時刻に間に合わないとき、よく取られるのは、遅れている工程に人を回すことです。他の工程から応援を出す、派遣を追加する、残業で対応する。どれも現場ですぐに打てる手です。
実際に、ある工程の処理能力が明らかに足りず、そこで仕事が止まっているなら、その工程に人を足すのは正しい判断です。応援や増員で完了時刻が戻る日も、確かにあります。
ただ、人を足しても完了時刻がほとんど変わらない日が続くなら、一度立ち止まって確かめておきたいことがあります。
その打ち手が外れるとき
ある物流センターでは、出荷の締めに間に合わない日が週に何度もありました。現場の見立ては「ピッキングが遅い」。ピッキングエリアはいつも慌ただしく、完了したオーダーが次々と流れていく一方で、残りのリストはなかなか減りません。そこで、梱包から2名をピッキングの応援に回しました。
ところが、完了時刻はほとんど変わりませんでした。
そこで、午後のある時刻に、各工程の入口に積まれている量を数えてみました。ピッキングの後ろには荷物が溜まっていない。溜まっていたのは、検品の入口でした。ピッキングを終えた荷物が検品の前で待たされ、その分だけ梱包に流れてくる量が減っていたのです。梱包から応援を抜いた結果、梱包は手が空き、ピッキングはさらに多くの荷物を検品の前に積み上げていました。
実は、滞留が増えていたのは検品の入口だった。
ピッキングが慌ただしく見えたのは、処理すべき量が多いからで、処理が遅れていたからではありませんでした。「どこが忙しそうか」と「どこが全体の完了時刻を決めているか」は、必ずしも一致しません。そして後者は、現場を見て回るだけでは見えにくく、工程全体の流れを数字で追って初めて見えてきます。
では、何を見るか:「終わらない」を分解する4つの数字
「出荷が終わらない」という現象を分解するために、見ておきたい数字は4つです。1日の終わりの結果ではなく、1日の途中の状態を捉える数字であることが共通しています。
1 工程別の進捗率(時刻断面)
| 定義 | ある時刻の時点で、各工程が、その日の対象量の何%を通過したか |
| 見方 | 同じ時刻で工程ごとの通過率を並べ、前後の工程との差を見る |
| 分かること | どこで進捗が遅れているか。最終工程の遅れが、どこから来ているか |
1日の終わりに「梱包が終わらなかった」と分かっても、それが梱包の問題なのか、梱包の前で止まっていたのかは分かりません。ある時刻で断面を切ると、工程ごとの進み具合が並びます。
| 14時時点(例) | 通過率 | 前の工程との差 |
|---|---|---|
| ピッキング | 70% | ― |
| 検品 | 45% | 25ポイント(ここで開いている) |
| 梱包 | 40% | 5ポイント |
この例なら、梱包は前の工程に対してほとんど遅れていません。最終工程の遅れは、たいていその前の工程で起きています。差が大きく開いている場所が、まず疑うべき場所です。
2 工程間の滞留量
| 定義 | 各工程の入口に積まれている、処理待ちの量 |
| 見方 | 1日のうち何度か数え、増えているのか、減っているのか、横ばいなのかを見る |
| 分かること | 処理能力が追いついていない工程 |
滞留は、ある時点の量よりも増え方に意味があります。一時的に溜まって、すぐ解消されるなら問題ありません。時間とともに増え続けている場所は、流れてくる量に対して、その工程の処理能力が追いついていない場所です。
進捗率が「どこで差が開いているか」を示すのに対して、滞留量は「その差がいま広がっているのか」を示します。WMSで工程ごとの完了登録が取れていれば、前工程の完了数と次工程の完了数の差として出せることもあります。取れていなければ、決まった時刻にかご車やコンテナの数を数えるだけでも、傾向は見えます。
3 オーダーの投入タイミング
| 定義 | 何時に、どれだけのオーダーを現場に流したか |
| 見方 | 時間帯ごとの投入量を、工程の処理量と並べて見る |
| 分かること | 遅れの原因が、現場の処理ではなく投入の仕方にあるケース |
現場がどれだけ速く処理しても、オーダーが締め時刻の直前にまとめて流れてくれば、間に合わない日は出ます。反対に、午前中に一度に大量のオーダーを流すと、最初の工程にだけ仕事が集中し、後ろの工程は手待ちになります。
投入のタイミングは、受注の締め方や、オーダーをいつ、どの単位で現場に渡すかという運用で決まります。遅れが毎日同じ時間帯から始まっているなら、現場の処理より先に、投入のタイミングを確かめておく意味があります。
4 締め時刻から逆算した必要処理速度
| 定義 | その工程の残量 ÷ 締め時刻までの残り時間 |
| 見方 | 工程ごとに、直近の実際の処理速度と並べて比べる |
| 分かること | いま、間に合うペースなのかどうか |
1〜3は、主に「なぜ遅れたか」を捉える数字です。4つ目は、1日の途中で「このままで間に合うか」を捉える数字です。
残り4時間で2,000個を処理しなければならないなら、必要な速度は1時間あたり500個です。直近1時間の実績が450個なら、このままでは間に合いません。計算は割り算だけですが、終わってから「終わらなかった」と分かるのと、途中で「このままでは終わらない」と分かるのとでは、打てる手の数がまったく違います。
3つの軸で「終わらない」を捉える
4つの数字を重ねると、「出荷が終わらない」という現象を、工程・時刻・滞留という3つの軸から捉えられるようになります。
そのうえで、押さえておきたい見方が一つあります。滞留が増え続けている工程が1つあれば、他の工程に人を足しても、全体の完了時刻は変わりにくいということです。
冒頭の例で、ピッキングに応援を足しても完了時刻が動かなかったのは、このためでした。検品の処理速度が変わらない限り、ピッキングが速くなっても、検品の前に積まれる量が増えるだけです。工程間の流れが安定している場合、全体の完了時刻は、いちばん詰まっている工程の処理能力に大きく左右されます。
工程ごとの完了時刻がWMSに残っていない現場もあります。その場合でも、毎日同じ時刻に、各工程の入口にあるかご車の数を数えて記録するだけで、滞留の傾向はかなり見えます。数日分を並べると、どこで溜まり続けているのかを考える手がかりになります。
ここまで見て、打ち手を考えられる
「出荷が終わらない」は、現象です。その原因は、人の数かもしれませんし、ある工程の処理能力かもしれませんし、オーダーを流すタイミングかもしれません。
どこに手を打つべきかは現場によって違います。ただ、「終わらない」を工程・時刻・滞留の3つの軸に分けて初めて、どこに手を打つかの議論ができるようになります。分けないままでは、議論はいつも「どこが忙しそうか」の印象から始まります。
「どこが遅いのか」を問う前に、
「どこで差が開き、どこに溜まり続けているのか」を数字で確かめる。
いちばん忙しく見える工程が、いちばん詰まっている工程とは限りません。
数字で試してみる
いまの時刻と締め時刻、工程ごとの残量と直近の処理速度を入れると、工程ごとの必要速度と、このペースが続いた場合の完了見込みが出ます。
最終工程の遅れが、どの工程から始まっているのか。初期値は冒頭の例に近い状態にしてあります。手元の数字に置き換えて、遅れの起点がどこに出るかを確かめてみてください。