COLUMN
コラム

WMSを入れたのに、
なぜ改善につながらないのか

物流を、数字で考える|その課題、どの数字を見れば判断できるのか

倉庫の保管棚を背に、WMSの実績データを表示したノートパソコン

「WMSを入れて、在庫も実績も全部システムに載りました。レポートも毎月出ています。でも、改善につながったかと聞かれると……」

WMSの導入は、倉庫にとって大きな投資です。在庫の精度が上がり、紙の伝票が減り、出荷ミスも減った。その効果は確かにあります。それでも、「生産性が上がらない理由」や「残業が減らない理由」を聞かれたとき、WMSの画面を開いても答えが見つからない。そう感じている現場は少なくないようです。

そして次に出てくるのは、「このWMSでは足りないのではないか」という声です。

この記事で扱うこと
・WMSのデータで「なぜ」に答えられないとき、何が起きているのか
・WMSに残る数字と、残りにくい数字の違い
・改善の判断に必要なのに、WMSだけでは捉えにくい5つの数字
・リプレースを検討する前に、確かめておきたいこと

よくある打ち手:WMSを入れ替える、機能を足す

WMSのデータで改善が進まないとき、よく検討されるのは、分析機能やレポート機能の強いWMSへのリプレースや、追加モジュールの導入です。いまのシステムの帳票では足りない、もっと細かく見られるシステムが必要だ、という考え方です。

実際に、いまのWMSが業務の変化に追いついていない、拠点ごとに別々のシステムが動いていてデータを合わせられない、といった状況なら、入れ替えや機能追加には十分な意味があります。

ただ、リプレースは大きな投資で、移行の負担も小さくありません。踏み切る前に、一つ確かめておきたいことがあります。

その打ち手が外れるとき

ある物流センターでは、WMSの導入から数年が経ち、分析機能が弱いことを理由にリプレースが検討されていました。「生産性が下がった月があっても、その理由がレポートから読み取れない」というのが、現場と管理部門の共通の不満でした。

そこで、リプレース先の候補を比べる前に、「生産性が下がった理由」を説明するために、どんな数字が必要なのかを書き出してみました。すると、必要な数字の多くは、候補のどのWMSでも、標準では記録されない種類のものだったのです。作業を始めた時刻、工程の間で荷物が待っていた時間、コンベヤが止まっていた時間、朝に立てた人員計画。こうした情報は、WMSだけでは捉えにくいものです。

WMSのリプレースを検討していた。
実は、足りなかったのはWMSが記録しない種類のデータだった。

WMSが悪かったわけではありません。WMSは「何を、いつ、どれだけ動かしたか」といった物流業務の実績を管理するためのシステムです。一方で、改善の判断には「それが、どう行われたか」を示す数字が要ります。この二つは、同じ現場のデータでありながら、別の種類の記録です。

WMSに残る数字、残りにくい数字

WMSが得意なのは、在庫の数量、入出荷の実績、ロケーション、オーダーの状態といった、モノと取引の記録です。これらは正確さが何より求められるもので、WMSはそのために作られています。

一方、改善の議論で必要になるのは、作業と時間の記録です。誰が、いつ始めて、いつ終わったのか。その間に何を待っていたのか。設備は動いていたのか。計画に対してどうだったのか。WMSはこうした記録を、主な目的としていません。

WMSに残りやすい WMSに残りにくい
何を、どれだけ出荷したかその作業に、実際に何分かかったか
いつ、完了登録されたかいつ着手し、その前にどれだけ待っていたか
在庫がどこに、いくつあるかそのとき、設備が動いていたか
日ごとの入出荷の合計時間帯ごとの投入と処理の推移
実際に起きたこと本来、どうなる予定だったか

左の列だけでは「何が起きたか」は分かっても、「なぜそうなったか」までは分かりにくい。WMSのレポートで改善の理由が見つからないのは、多くの場合、探している答えが右の列にあるからだと考えられます。

では、何を見るか:WMSだけでは捉えにくい5つの数字

改善の判断に必要なのに、WMSの記録だけでは捉えにくい数字を5つ挙げます。WMSによっては一部を記録しているものもありますが、改善の判断にそのまま使える形で残っているとは限りません。自社のWMSで取れているか、取れていないなら何で補えるかを確かめる手がかりにしてください。

1 作業の実所要時間

WMSでの扱い完了登録の時刻は残るが、着手から完了までの実際の時間は取れないことが多い
なぜ必要か生産性(処理量 ÷ かかった時間)を出すための分母になる

生産性を正しく出すには、処理した量と、それにかかった時間の両方が要ります。WMSには処理量が正確に残りますが、かかった時間のほうは、勤怠の拘束時間で代用されていることがよくあります。拘束時間には、休憩、段取り、手待ち、他の作業の応援も含まれます。分母が粗いままでは、生産性が下がったときに、作業が遅くなったのか、作業以外の時間が増えたのかを区別しにくくなります。

2 工程間の待ち時間

WMSでの扱い記録の対象外であることが多い
なぜ必要か遅れの原因が「人」なのか「流れ」なのかを切り分けるため

ピッキングを終えた荷物が、検品の前で30分待っていた。その30分は、WMSの上ではどこにも現れません。WMSにとって、荷物は「ピッキング完了」から「検品完了」へ状態が変わっただけです。待ち時間が長いと、人は十分にいても全体が遅れます。前回の記事で扱った工程間の滞留は、この待ち時間が積み重なった結果でもあります。

3 設備の稼働状況

WMSでの扱いWMSの管轄外。設備側の制御システムや稼働監視に記録されている
なぜ必要か人と設備のどちらが制約になっているかを確かめるため

コンベヤやソーター、AGVなどの設備がある現場では、設備の停止やチョコ停が作業の遅れに直結します。ところが設備の記録は、WMSとは別のシステムにあることがほとんどです。作業の実績と設備の停止記録が別々にあると、「14時台に処理が落ちた」ことと「14時台にソーターが止まっていた」ことが結びつきません。その結果、設備の問題が、人の生産性の問題として扱われることもあります。

4 時間帯別の投入・処理

WMSでの扱い日次集計が基本。時間単位の帳票がないか、あっても粒度が粗い
なぜ必要か1日の中の山谷が、日次の合計では消えてしまうため

時間帯別の出荷量が大切なことは、「人が足りない」の前に、確かめておきたい4つの数字でも触れました。WMSには個々の実績の登録時刻が残っていることが多いので、元のデータを取り出せば、時間帯ごとに集計し直せる場合があります。ただ、標準の帳票が日次単位だと、現場ではその数字を見る機会そのものがありません。データが「ある」ことと、判断する人の目に「届いている」ことは別です。

5 計画値

WMSでの扱い実績は残るが、その日の人員計画や完了予定は残らないことが多い
なぜ必要か予定と実績を比べて、どこでずれたかを見るため

朝の段階で「今日は12人で、17時に終わる予定」と決めていても、その計画はホワイトボードや管理者の頭の中にしか残っていないことがよくあります。実績だけが残り、計画が残らないと、「今日は遅かった」とは言えても、「どこで、どれだけ予定からずれたか」は言えません。比べる相手がない実績は、良かったのか悪かったのかを判断しにくい数字です。

WMSを「記録の土台」として見直す

5つの数字を並べると、WMSとの関係が見えてきます。

WMSと、改善に必要な数字の関係
WMSにある 何を、いつ、どれだけ動かしたか 正確で信頼できる。改善の議論でも、すべての土台になる
WMSから作れる 時間帯別の処理量、工程ごとの完了時刻 元データを取り出して集計し直せば、見えるようになる場合がある
WMSの外にある 実所要時間、待ち時間、設備の稼働、計画値 勤怠、設備の記録、日報など、別の場所にある記録と組み合わせる必要がある

こう整理すると、「WMSで改善が進まない」という悩みの中身が分かれてきます。WMSにある数字が使われていないのか。WMSから作れる数字が作られていないのか。それとも、改善に必要な数字がWMSの外に置かれたままなのか。どれに当たるかによって、リプレースが答えになる場合もあれば、ならない場合もあります。

WMSは、なくてはならない記録の土台

この記事は、WMSが役に立たないと言いたいわけではありません。むしろ逆で、改善に必要な数字の多くは、WMSの正確な実績があって初めて意味を持ちます。実所要時間も待ち時間も、「何を何件処理したか」が正確に分かっているから比べられるのです。問題は、WMSの記録だけで改善の理由まで説明しようとすることにあります。

自社のWMSで、確かめてみる

5つの数字それぞれについて、いまの自社の記録で出せるかどうかを選んでみてください。出せない数字があると、どんな問いに答えにくくなるのかが表示されます。

1 作業の着手時刻と完了時刻の両方が、作業ごとに残っているか
完了登録の時刻だけでなく、始めた時刻も記録されているか
2 前の工程の完了から、次の工程の着手までの時間を出せるか
工程ごとに登録時刻が残り、同じ荷物やオーダーで突き合わせられるか
3 設備の稼働・停止の記録を、作業実績と同じ時間軸で見られるか
コンベヤ・ソーター・AGVなどの停止時刻を、作業の遅れと並べられるか
4 投入量と処理量を、1時間以下の単位で出せるか
日次の集計ではなく、時間帯ごとの数字として
5 その日の計画(人員・処理量・完了予定)が、実績と並べられる形で残っているか
朝に立てた計画が、ホワイトボードや頭の中だけで終わっていないか
いま答えにくい問い
  • 上の5つに答えると、ここに表示されます。

「分からない」は、答えられない問いとして扱います。記録があるかどうかが分からない状態は、判断に使えない状態とほぼ同じだからです。

ここまで見て、打ち手を考えられる

WMSを入れても改善につながらないとき、足りないのはシステムそのものではなく、判断に必要な粒度と種類のデータであることがあります。WMSは「何をしたか」の記録には強く、「どう行われたか」の記録は主な守備範囲ではありません。

リプレースが必要なのか、いまのWMSのデータを集計し直せば足りるのか、WMSの外にある記録と組み合わせるべきなのか。それを考える手がかりは、改善の理由を説明するために、どの数字が必要で、それがいまどこにあるのかを確かめることにあります。

「このWMSで足りるか」を問う前に、
「改善の理由を説明するのに、どの数字が足りていないのか」を確かめる。

答えがWMSの中にないとき、次に探すべき場所は、別のWMSとは限りません。

WMSの実績と、WMSの外にある記録をつなぐ

NW-Optimizerは、WMSの実績を土台に、作業時間・工程の進捗・設備の稼働といった記録を重ねて、「なぜそうなったか」を数字で追えるようにする仕組みです。今あるWMSや設備のデータで、どこまで見えるかをご一緒に確認できます。

「WMSはあるのに、理由が説明できない」という段階が、ちょうど入口です。

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