「今どうなっているか」から
「このままいくとどうなるか」へ
ここまでの4回で扱ってきたのは、すべて終わった話でした。KPIを分解し、切り口を変え、条件を揃えて比べ、原因の候補を絞る。これらはどれも、昨日や先週の実績に対して行う作業です。
しかし現場が本当に困っているのは、多くの場合こちらです。
「今日、18時の出荷に間に合うのか」
この問いに答えられるかどうかで、データの使い方は大きく変わります。実績を振り返るのが分析なら、こちらは予測です。そして予測は、AIや統計モデルを用意しなくても、四則演算から始められます。
・四則演算でつくる作業完了予測——3つの数字だけで出せる
・同じ予測を16時に知るか、17時半に知るかの決定的な差
・予測が外れる前提で、どう使うか
・予測を成り立たせる入力と、その落とし穴
・翌日の物量予測(入力側の予測)との違い
作業完了予測は、3つの数字で出せる
必要なのは、残っている作業量、今の処理ペース、締めまでの残り時間。この3つです。
完了見込み 18時24分/締めに対して 24分の遅れ
そして、同じ3つの数字から必要なペースも出ます。2時間で3,600ピースを終えるには、1時間あたり1,800ピース。今のペースより300ピース/時、足りません。1人あたり100ピース/人時の工程なら、3人ぶんの手当てが必要ということになります。
ここまで出てくると、会話が変わります。「間に合わないかもしれない」ではなく、「あと3人ぶん、2時間」。予測の出力は、時刻ではなく手当ての量であると言ってもいいと思います。
16時に知るか、17時半に知るか
この予測でいちばん重要なのは、精度ではありません。それが何時に分かるかです。同じ「24分遅れ」という情報でも、手元にある選択肢がまるで違います。
・作業順序を組み替える
・優先度の低い出荷を翌日に回す判断を相談する
・車両の到着時刻を調整してもらう
・そもそも残業が必要かを事前に伝えられる
応援を呼んでも移動と立ち上がりで間に合わず、出荷の組み替えも先方への連絡が間に合わない。
予測の価値は、ここに集約されます。当てることではなく、手を打てる時間を作ること。24分の遅れを17時半に高精度で言い当てても、できるのは残業の指示だけです。16時に「たぶん20〜30分ほど遅れる」と粗く分かるほうが、現場にとってはるかに使えます。
予測は外れる。外れる前提で使う
もちろん、この計算は外れます。物量が追加で入ってくることもあれば、後半の作業が楽になってペースが上がることもあります。ですから、次の3点を前提にしておくと扱いやすくなります。
| 扱い方 | 理由 |
|---|---|
| 更新し続ける | 予測は一日一回出すものではなく、時間の経過とともに何度も更新するもの。時間が進むほど残作業が減り、予測は自然に正確になっていく |
| 幅で持つ | 「18時24分」と一点で言うより、「18時10分〜18時40分」と幅で持つほうが実態に合う。判断に必要なのは「間に合うか、間に合わないか」であって分単位の精度ではない |
| 閾値を決めておく | 何分の遅れが見えたら、誰に伝えて何を動かすのか。これを事前に決めておかないと、予測が出ても「見ておしまい」になる |
3つ目は特に重要で、第1回で挙げた「誰も開かないダッシュボード」がここでも起こります。完了予測の画面を作っても、遅れが見えたときに誰が何を動かすかが決まっていなければ、それは新しい報告画面が一つ増えただけです。この点は第7回で正面から扱います。
入力の落とし穴——3つの数字は、意外と難しい
計算そのものは割り算ですが、入力の作り方で結果は変わります。実務で気をつける点を挙げておきます。
1. 「今のペース」をどの範囲で取るか
直近15分で取ると、休憩明けの立ち上がりや一時的な詰まりに振り回されます。一日平均で取ると、午後に落ちている現場では実態より楽観的な予測になります。直近30分〜1時間程度の移動平均あたりが、多くの現場で扱いやすい範囲だと思います。
2. 「残作業量」は、数だけでは足りない
残り3,600ピースが、どれも同じ手間とは限りません。前回の④で扱ったとおり、大型品やバラ出荷が後半に集中していれば、後半のペースは落ちます。ピース数だけでなく残っているオーダーの中身を見られると、予測は一段実態に近づきます。難しければ、まずは「後半は重い」という現場の実感を、幅の取り方に反映させるだけでも十分です。
3. 「締め時刻」の定義を揃える
18時は、車両の出発時刻でしょうか。それとも積み込み完了、あるいは梱包完了でしょうか。締めの定義が人によって違うと、同じ予測を見て「間に合う/間に合わない」の判断が分かれます。予測を導入するときにいちばん揉めるのは、たいてい計算式ではなく締めの定義です。
完了予測は、実績がリアルタイムに近い形で入ってこないと成り立ちません。日次バッチで翌朝にしか集計されないデータでは、当日の手当てには使えません。どの用途にどの処理タイミングが必要かは「物流データ基盤」シリーズ(第6回)で扱っています。今回は使えるデータが手元にある前提で、何を計算するかに絞っています。
もう一つの予測——翌日の物量
ここまでは当日の完了予測(出口側)でした。もう一つ、現場が知りたい予測があります。入ってくる側、つまり翌日どれだけ来るのかという物量の予測です。
これも、まずは手元の材料から始められます。
| 材料 | 使い方 |
|---|---|
| 受注の積み上がり | すでに入っている翌日分のオーダー。締め切り前でも、例年この時点で全体の何割が入っているかが分かれば、着地を見込める |
| 曜日・月内の位置 | 月曜は多い、月末は多い、五十日は多い。現場が経験的に知っている波を、数字で確認する |
| カレンダー要因 | 連休前後、セール、キャンペーン、天候。イベントの有無で波が変わる |
| 前年同期 | 季節性のある商材では、前年の同じ週の形が参考になる |
当日予測との違いは、何のために使うかです。当日予測は今日の手当てのために。翌日予測は要員計画のために使います。明日15,000ピース来ると分かれば、今日のうちにシフトを組み替えられます。ここから先、「では何人必要なのか」という問いが出てきますが、それは次回のテーマです。
物量予測は、機械学習の題材としてよく取り上げられる領域です。実際、複雑な要因が絡む場合には有効な手段の一つになります。
ただし順番として、四則演算と実績データで予測を始めてしまうほうが早いと思います。理由は2つあって、一つは割り算による着地見込みでも「手を打つ時間」は十分に作れること。もう一つは、精度の高いモデルを作るには、まず何を予測したいのか(完了時刻か、物量か、必要人員か)と、その予測がどの判断に使われるのかが決まっている必要があることです。使い道が決まっていない予測は、精度が上がっても使われません。
まとめ——過去を説明する分析から、間に合わせるための分析へ
ここまでの4回は、起きたことを理解するための回でした。今回で、データの使い方が変わりました。過去を説明するためではなく、まだ変えられる未来に間に合わせるためにデータを見る。これが活用6段階のLevel 3「予測する」です。
そしてこの段階に入ると、必ず次の問いが出てきます。「あと3人ぶん足りない」と分かったとき、その3人をどこから出すのが最善なのか。増員するのか、他工程から回すのか、順序を変えるのか。
進捗量と処理ペースが当日中に把握できるか、締め時刻の定義が揃っているか、遅れが見えたときの伝達先が決まっているか——予測を運用に載せるための条件整理から支援します。
「間に合わないと分かるのが、いつも締めの直前」という段階からでもご相談いただけます。
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