「何が起きたか」から「なぜ起きたか」へ
——異常を見つけるだけでは改善にならない
前回までで、KPIを分子と分母に割り、工程別・時間帯別に切って、差が出ている場所を見つけるところまで来ました。たとえば「夕方の梱包工程で人時が3割増えている」。
ここまでが「何が起きたか」です。そして多くの現場では、ここで分析が終わります。
「夕方の梱包が落ちていますね」
「そうですね。気をつけましょう」
第2回の冒頭に出した会話と、構造がまったく同じです。分解して、切って、場所を特定したのに、最後の一歩で同じ場所に戻ってしまう。異常を見つけることは、成果ではなくスタート地点だからです。
・「なぜ」に近づくために、順番に埋めていく6つの問い
・前日比・前週比・計画比は、それぞれ何を教えてくれるのか
・「条件を揃えて比べる」ことの難しさ
・異常なのは現場か、それともデータか
・データで分かることと、現場で確かめることの境界
「なぜ」は、6つの問いに分けて埋めていく
「なぜ落ちたのか」を一気に考えようとすると、経験のある人の推測が最初に出てきて、そのまま結論になりがちです。推測が当たっていることも多いのですが、外れていたときに気づけません。
そこで、問いを分けます。埋められるものから順に埋めていくと、推測の余地が少しずつ狭まっていきます。
この6つを埋めていくと、「夕方の梱包が落ちた」は、たとえば「先週から、締め前1時間に大型品の梱包が集中するようになった」という形に変わります。まだ原因の断定ではありませんが、確かめるべき仮説の形になりました。
比較の相手を選ぶ——前日比・前週比・計画比
「何が違ったか」を見るには、比較の相手が必要です。実務でよく使うのは3つですが、それぞれ答えてくれる問いが違います。
3つのうちどれか一つが正解ということはありません。ただ、順番としては前週同曜日比で「いつもと違うのか」を確かめ、計画比で「狙いからどれだけずれたか」を見るのが、物流現場では読み間違いが少ないと思います。前日比は速報性が高い一方で、曜日性の強い現場では警報が鳴りすぎます。
ここでの計画比は、原因に近づくための比較の道具としての使い方です。計画と実績の差を継続的に管理し、次の計画へ反映していく話(予実管理)は、第8回であらためて扱います。
いちばん難しいのは、条件を揃えること
「良かった日と悪かった日を比べる」——言葉にすると簡単ですが、ここが原因分析の山場です。物流現場の一日は、二度と同じ条件になりません。
| 揃えたい条件 | 揃っていないと起こる読み間違い |
|---|---|
| 物量 | 物量が少ない日は生産性も落ちやすい(段取りや待機の比率が上がる)。改善したのではなく、楽だっただけかもしれない |
| オーダー構成 | ケース出荷が多い日とバラ出荷が多い日を「件数」で比べると、難易度差が生産性差に見える |
| 人の構成 | ベテランが多かった日と、新人が多かった日。手順を変えた効果と、習熟の差が混ざる |
| 時期 | 繁忙期とそれ以外。締め時刻や応援ルールが違えば、そもそも別の運用 |
| 設備の状態 | コンベヤや自動機が一部停止していた日。工程の能力そのものが違う |
完璧に条件を揃えることはできません。できるのは、揃っていない条件を把握したうえで比べることです。「この2日は物量がほぼ同じで、オーダー構成も近い。違うのは応援の入り方だけ」——ここまで言えれば、その差はかなり信頼できます。逆に、条件を確認せずに前後を比べた数字は、いくら精緻に計算しても解釈が揺れます。
そして、この「条件を揃える難しさ」は、第8回の効果測定でもう一度、より厳しい形で戻ってきます。原因を探るときも、改善の効果を測るときも、問われるのは同じことです。
異常なのは現場か、それともデータか
もう一つ、原因分析の入口で確認しておくべきことがあります。その異常は、本当に現場で起きたのか。
生産性が半分になった、ある工程の実績がゼロになった、深夜に不自然な作業時間が記録されている——こうした極端な数字は、現場の異常ではなくデータ側の事情で生まれることがあります。実績の登録漏れ、端末の未同期、システム間の時刻ずれ、二重計上。
判別のコツは、その数字が物理的にありうるかを考えることです。1人で1時間に1,000個を梱包したことになっていれば、それは現場の記録ではなくデータの問題です。逆に、ありうる範囲で落ちているなら、現場を見に行く価値があります。
欠損や重複を検知し、品質を保ち続ける仕組みは「物流データ基盤」シリーズ(第5回)で扱いました。ここで必要なのは、原因を探し始める前に「現場を疑うのか、データを疑うのか」を一度立ち止まって決めることだけです。この判断を飛ばすと、存在しない現場問題を追いかけることになります。
データで絞る、現場で確かめる
最後に、この回のいちばん大事な線引きです。データ分析でできるのは、原因の候補を絞ることまでです。
「先週から、締め前1時間に大型品の梱包が集中している」——ここまではデータが教えてくれます。では、なぜ集中するようになったのか。出荷先の締め時刻が変わったのか、前工程の着手順が変わったのか、資材の置き場が遠くなったのか。これを確かめるのは、現場を見ることと、現場に聞くことです。
データ分析は、現場を見る場所と時間帯を指定してくれます。逆に言えば、データなしで現場を見に行くと、どこを見ればいいのか分からないまま一日が終わります。どちらか一方では原因に届かない——分析と現場観察は、対立するものではなく順番の問題です。
候補を確かめるのは、現場です。
まとめ
第2回でKPIを割り、第3回で切り口を変え、今回で「なぜ」の手前まで来ました。ここまでが活用6段階のLevel 2「分かる」——起きていることを説明し、次に何を確かめるべきかが分かる状態です。
ただし、ここまではすべて過去に起きたことの話です。原因が分かっても、それは終わった一日についての理解にとどまります。次に必要になるのは、まだ終わっていない今日への手当てです。
前週同曜日と条件を揃えて比べられるか、物量・オーダー構成・人の構成を並べて確認できるか——原因の候補を絞れるところまでデータが揃っているかの整理から支援します。
「落ちた理由が毎回、経験による推測で終わってしまう」という段階からでもご相談いただけます。
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