COLUMN
コラム

コラム | 物流データ活用 第4回 | 2026年9月17日

「何が起きたか」から「なぜ起きたか」へ
——異常を見つけるだけでは改善にならない

何が起きたかから、なぜ起きたかへ

前回までで、KPIを分子と分母に割り、工程別・時間帯別に切って、差が出ている場所を見つけるところまで来ました。たとえば「夕方の梱包工程で人時が3割増えている」。

ここまでが「何が起きたか」です。そして多くの現場では、ここで分析が終わります。

「夕方の梱包が落ちていますね」

「そうですね。気をつけましょう」

第2回の冒頭に出した会話と、構造がまったく同じです。分解して、切って、場所を特定したのに、最後の一歩で同じ場所に戻ってしまう。異常を見つけることは、成果ではなくスタート地点だからです。

この回で扱うこと
・「なぜ」に近づくために、順番に埋めていく6つの問い
・前日比・前週比・計画比は、それぞれ何を教えてくれるのか
・「条件を揃えて比べる」ことの難しさ
・異常なのは現場か、それともデータか
・データで分かることと、現場で確かめることの境界

「なぜ」は、6つの問いに分けて埋めていく

「なぜ落ちたのか」を一気に考えようとすると、経験のある人の推測が最初に出てきて、そのまま結論になりがちです。推測が当たっていることも多いのですが、外れていたときに気づけません。

そこで、問いを分けます。埋められるものから順に埋めていくと、推測の余地が少しずつ狭まっていきます。

「夕方の梱包が落ちている」——ここから先の6つの問い
いつから 今日だけの話か、ずっと続いているのか 今日だけなら当日の事象。1か月前から続いていれば、体制や手順の変更を疑う
どの範囲で 梱包工程だけか、その前後にも起きているか 検品も遅れているなら、梱包は詰まりの結果かもしれない
いつの時間で 夕方全体か、特定の1時間か 締め前1時間だけなら、物量の集中か締めのルールの問題に寄る
何を扱って 扱った商品・オーダーの構成は普段と同じか 夕方だけ大型品やバラ出荷が集まっていれば、作業の難易度が違う
誰が・何で 人と設備の状態はどうだったか 応援者の構成、設備の停止、資材切れ。人の評価ではなく条件として見る
何が違った うまくいっていた日と、この日の差は何か ここが本題。上の5つは、この問いに答えるための材料集め

この6つを埋めていくと、「夕方の梱包が落ちた」は、たとえば「先週から、締め前1時間に大型品の梱包が集中するようになった」という形に変わります。まだ原因の断定ではありませんが、確かめるべき仮説の形になりました。

異常検知はスタート地点であって、成果ではありません。

比較の相手を選ぶ——前日比・前週比・計画比

「何が違ったか」を見るには、比較の相手が必要です。実務でよく使うのは3つですが、それぞれ答えてくれる問いが違います。

前日比
直前との差。当日発生した事象を拾うのに向く。設備トラブル、急な物量変動、欠員などの検知が早い。
注意:曜日の性格が違うと差が出て当たり前
前週同曜日比
曜日の波を揃えた比較。月曜と金曜で物量特性が違う現場では、前日比より素直に読める。
注意:月末・連休・繁忙期はこの比較も崩れる
計画比
狙いとの差。「そもそも何個・何人で終わらせる予定だったのか」に対して、どれだけずれたかを見る。
注意:計画の精度が低いと、差の意味も薄れる

3つのうちどれか一つが正解ということはありません。ただ、順番としては前週同曜日比で「いつもと違うのか」を確かめ、計画比で「狙いからどれだけずれたか」を見るのが、物流現場では読み間違いが少ないと思います。前日比は速報性が高い一方で、曜日性の強い現場では警報が鳴りすぎます。

計画比は、⑧の予実管理とは別の使い方

ここでの計画比は、原因に近づくための比較の道具としての使い方です。計画と実績の差を継続的に管理し、次の計画へ反映していく話(予実管理)は、第8回であらためて扱います。

いちばん難しいのは、条件を揃えること

「良かった日と悪かった日を比べる」——言葉にすると簡単ですが、ここが原因分析の山場です。物流現場の一日は、二度と同じ条件になりません。

揃えたい条件 揃っていないと起こる読み間違い
物量 物量が少ない日は生産性も落ちやすい(段取りや待機の比率が上がる)。改善したのではなく、楽だっただけかもしれない
オーダー構成 ケース出荷が多い日とバラ出荷が多い日を「件数」で比べると、難易度差が生産性差に見える
人の構成 ベテランが多かった日と、新人が多かった日。手順を変えた効果と、習熟の差が混ざる
時期 繁忙期とそれ以外。締め時刻や応援ルールが違えば、そもそも別の運用
設備の状態 コンベヤや自動機が一部停止していた日。工程の能力そのものが違う

完璧に条件を揃えることはできません。できるのは、揃っていない条件を把握したうえで比べることです。「この2日は物量がほぼ同じで、オーダー構成も近い。違うのは応援の入り方だけ」——ここまで言えれば、その差はかなり信頼できます。逆に、条件を確認せずに前後を比べた数字は、いくら精緻に計算しても解釈が揺れます。

そして、この「条件を揃える難しさ」は、第8回の効果測定でもう一度、より厳しい形で戻ってきます。原因を探るときも、改善の効果を測るときも、問われるのは同じことです。

異常なのは現場か、それともデータか

もう一つ、原因分析の入口で確認しておくべきことがあります。その異常は、本当に現場で起きたのか。

生産性が半分になった、ある工程の実績がゼロになった、深夜に不自然な作業時間が記録されている——こうした極端な数字は、現場の異常ではなくデータ側の事情で生まれることがあります。実績の登録漏れ、端末の未同期、システム間の時刻ずれ、二重計上。

判別のコツは、その数字が物理的にありうるかを考えることです。1人で1時間に1,000個を梱包したことになっていれば、それは現場の記録ではなくデータの問題です。逆に、ありうる範囲で落ちているなら、現場を見に行く価値があります。

データ品質そのものは基盤側のテーマ

欠損や重複を検知し、品質を保ち続ける仕組みは「物流データ基盤」シリーズ(第5回)で扱いました。ここで必要なのは、原因を探し始める前に「現場を疑うのか、データを疑うのか」を一度立ち止まって決めることだけです。この判断を飛ばすと、存在しない現場問題を追いかけることになります。

データで絞る、現場で確かめる

最後に、この回のいちばん大事な線引きです。データ分析でできるのは、原因の候補を絞ることまでです。

「先週から、締め前1時間に大型品の梱包が集中している」——ここまではデータが教えてくれます。では、なぜ集中するようになったのか。出荷先の締め時刻が変わったのか、前工程の着手順が変わったのか、資材の置き場が遠くなったのか。これを確かめるのは、現場を見ることと、現場に聞くことです。

データ分析は、現場を見る場所と時間帯を指定してくれます。逆に言えば、データなしで現場を見に行くと、どこを見ればいいのか分からないまま一日が終わります。どちらか一方では原因に届かない——分析と現場観察は、対立するものではなく順番の問題です。

データは、原因の候補を絞る。
候補を確かめるのは、現場です。

まとめ

第2回でKPIを割り、第3回で切り口を変え、今回で「なぜ」の手前まで来ました。ここまでが活用6段階のLevel 2「分かる」——起きていることを説明し、次に何を確かめるべきかが分かる状態です。

ただし、ここまではすべて過去に起きたことの話です。原因が分かっても、それは終わった一日についての理解にとどまります。次に必要になるのは、まだ終わっていない今日への手当てです。

次回:「今どうなっているか」から「このままいくとどうなるか」へ

16時の時点で、このままでは18時の出荷に間に合わない——と分かる。これは実績管理ではなく予測です。

進捗量・残作業量・現在の生産性・残り時間。難しいモデルの前に、四則演算でできる着地見込みから始めます。予測の価値は精度ではなく、手を打つ時間を前倒しできる長さにあります。
原因分析に必要な比較ができる状態か、ご相談いただけます

前週同曜日と条件を揃えて比べられるか、物量・オーダー構成・人の構成を並べて確認できるか——原因の候補を絞れるところまでデータが揃っているかの整理から支援します。

「落ちた理由が毎回、経験による推測で終わってしまう」という段階からでもご相談いただけます。

お問い合わせはこちら