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コラム | 物流データ活用 第2回 | 2026年9月15日

その数字は、何からできているのか?
——KPIではなく、KPIの構造を見る

KPIを分解して構造を見る

前回は、データが見えるようになっても現場が変わらない理由を整理し、活用の6段階を地図として示しました。今回はその第一歩、Level 1「見る」からLevel 2「分かる」への入口にあたる回です。

朝会でこんな会話がなされていないでしょうか。

「昨日の人時生産性は92個・人時でした。前日は104でしたので、少し落ちています」

「そうか。今日は気をつけよう」

数字は出ています。前日比も取れています。それでも次の行動は決まりません。理由は単純で、「92」という数字を一つのかたまりとして見ているからです。かたまりのままでは、上がった/下がったしか言えません。

この回で扱うこと
・KPIを「監視する対象」から「分解する対象」へ切り替える
・人時生産性を分母と分子に割ると、会話がどう変わるのか
・処理量・人時を、さらにどこまで割ればいいのか
・収集シリーズの「KPIから逆算する」と、今回の「KPIを分解して戻る」の関係

KPIは、一つの数字ではなく計算結果である

当たり前の話から始めます。KPIはすべて、何かを何かで割った、あるいは何かを積み上げた計算結果です。人時生産性なら、こうなります。

人時生産性 = 処理量 ÷ 投入人時
92個・人時は、この式の答えとして出てきた数字にすぎない

ここで重要なのは、この式の答えが下がるパターンは一つではないということです。

起きたこと 分子(処理量) 分母(投入人時)
パターンA 減った(出荷が少なかった) 変わらない(人は同じだけ出た)
パターンB 変わらない 増えた(残業・応援が入った)
パターンC 増えた もっと増えた

3つはどれも「生産性が落ちた」と表示されますが、現場で起きていることはまったく違います。Aは物量側の変化を、Bは投入人時が増えた理由を、Cは物量増加に対する人時の増え方が適切だったかを、それぞれさらに確認する必要があります。次に確認すべきことが違うのに、KPIの表示は同じ——これが「数字は見えているのに動けない」状態の正体です。

KPIは、監視する対象ではありません。分解する対象です。

まず、分母と分子に割ってみる

やることは難しくありません。生産性が落ちたと分かったら、次に見るのは生産性ではなく分子と分母のそれぞれです。

分子
処理量——何を、どれだけ処理したか
・出荷件数(オーダー数)
・行数(明細数)
・ピース数
・ケース数/パレット数
・工程別の処理量
分母
投入人時——誰が、どれだけ時間を使ったか
・人員数
・稼働時間(実働/休憩を除く)
・残業時間
・工程間の応援時間
・準備・片付け・待機の時間

この2枚を並べただけで、冒頭の会話は次のように変わります。

「昨日の人時生産性は92個・人時。前日との差は分母側にあります。ピース数は前日とほぼ同じでしたが、投入人時が1割増えていました」

「なぜ人時が増えた?」

「午後に他工程から応援を4人・2時間入れています」

「その応援は必要だったのか、余っていたから回したのか。どちらだ?」

会話が「気をつけよう」で終わらなくなりました。次に確認すべきことが、数字の側から指定されている状態です。これがLevel 2「分かる」の入口です。

ここで一つ、注意点

分子に何を置くかで、同じ現場の生産性はまったく違う数字になります。オーダー数で数えるか、行数で数えるか、ピース数で数えるか——1オーダー1ピースの日と、1オーダー30ピースの日を「件数」で比べれば、後者の生産性は低く出ます。

KPIを分解するとは、その数字が何を単位にしているかを言えるようにすることでもあります。単位が揃っていない比較は、分解しても答えに届きません。

どこまで割るのか——「次の一手が決まるまで」

分母と分子に割ったら、そのまま下へ降りていきます。ただし、細かく割ること自体が目的ではありません。判断の基準は一つで、次の一手が決まるところまでです。

人時生産性が落ちた——分解の降り方
人時生産性 92個・人時(前日104)
├ 処理量:ほぼ前日並み → 大きな変化なし
└ 投入人時:1割増 → こちらを掘る
├ 人員数:変化なし
└ 稼働時間:増加 → 工程別に見る
 ├ 入荷・格納:前日並み
 ├ ピッキング:前日並み
 └ 梱包:3割増 → 次に確認すべき場所

ここまで降りると、「生産性が落ちた」は「梱包工程で想定以上の人時を使った」に変わります。原因そのものが分かったわけではありませんが、次にどこを見るべきかは明確になります。次に何を確認すべきかが具体的になるのは、この粒度からです。梱包の作業手順なのか、資材の置き方なのか、応援者の習熟なのか——確認の対象がやっと絞られます。

逆に、ここまで降りずに「生産性を上げよう」と号令をかけると、現場は何を変えればいいのか分かりません。号令が抽象的なのは、KPIが分解されていないからです。

分解の切り口は、だいたい4つで足りる

KPIを分子と分母に分解した後、その数字をどの切り口で見るかによって、見える実態は変わります。代表的な切り口は次の4つで、実務上まず用意しておくべきものもこの範囲です。

切り口 分かること
工程別 どの工程が人時を使っているか。全体の生産性を引き下げている場所はどこか
時間帯別 一日のどこで落ちているか。立ち上がり・締め前・応援の出入りとの関係
商品・オーダー特性別 作業の難易度差。ケース出荷とバラ出荷、大型品と小物の混在
作業者・チーム別 習熟度と配置の影響。教育で埋まる差か、配置で埋まる差か

この4つは、次回(第3回)で扱う「切り口を変えて実態を読む」に直接つながります。今回はまず、KPIを式として見て、分子と分母に割るところまでで十分です。

収集シリーズの「逆算」と、今回の「分解」の関係

物流データ収集入門の第1回では、改善したいKPIから逆算して、必要なデータ項目を決める考え方を扱いました。今回はその裏返しです。

収集の設計:KPI → 必要な項目を決める(逆算して集める)
活用の分析:集めたデータ → KPIを分解して戻る
同じ構造を、逆方向にたどっている

この2つが噛み合っていると、分解はスムーズに進みます。逆に、分解しようとして「工程別の作業時間が取れていない」と気づくことがあります。それは分析の失敗ではなく、収集設計の宿題が見つかったということです。読取ポイントや記録の粒度を足せば、次からは降りられるようになります。

分解できない箇所は、収集設計へのフィードバックになる

「梱包工程の人時だけが分からない」——この一言は、次のデータ収集の要件そのものです。KPIを分解する習慣がつくと、必要なデータが現場の側から具体的に出てくるようになります。データ収集と活用は、前後関係ではなく往復です。

まとめ——数字を見る前に、式を見る

KPIを一つの数字として眺めているかぎり、できるのは「上がった・下がった」の報告までです。式として見た瞬間に、分子・分母・工程・時間帯という次に見る場所が現れます。物流データ分析の出発点は、統計の手法ではなく、この単純な割り算です。

「生産性が落ちた」で止まる会話と、
「分母側が増えている。特に梱包工程を確認しよう」まで進む会話。
この差が、Level 1からLevel 2への入口です。
次回:平均値だけでは、現場の実態は見えない——切り口を変えると数字の意味が変わる

平均生産性100個・人時。しかし午前は120で午後は80かもしれません。A工程120、B工程110、C工程70かもしれません。平均が同じでも、日ごとのばらつきが違えば現場の難易度はまったく違います。

次回は、今回用意した切り口を実際に当てていきます。どの切り口で分けた瞬間に問題が見えるのか——「まず割ってみる」という習慣の回です。
KPIをどこまで分解できる状態にあるか、ご相談いただけます

工程別・時間帯別に人時と処理量を分けて見られるか、単位の揃った比較ができるか——既存のWMSや設備のデータで、どこまで降りられるのかの棚卸しから支援します。

「生産性が落ちた理由が説明できない」という段階からでもご相談いただけます。

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