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コラム | 物流データ収集入門 第8回 | 2026年8月26日

バーコード・RFID・画像認識の違いより重要な「データ設計」
—識別技術を選ぶ前に決めること

識別技術とデータ設計のイメージ
この記事でわかること
・識別技術の比較から入ると失敗しやすい理由
・技術選定の前に決めるべき3つの設計項目
・識別単位と読取ポイントが、取得できるKPIを決めるという関係
本記事は「物流データ収集入門」シリーズの第8回です。第7回までは、設備や既存システムからデータをどう取得するかを整理してきました。今回は、倉庫のデータ収集で中心的な役割を果たす「モノを識別する仕組み」について、技術の選定より前に決めるべきことを解説します。

「バーコードとRFID、どちらを導入すべきか」「画像認識で検品を自動化できないか」——倉庫のデータ活用を検討する際、こうした技術選定の相談は少なくありません。

それぞれの技術には特性の違いがあり、比較検討は必要です。しかし、技術の比較から入ると、導入後に「思っていたデータが取れない」という状況になることがあります。

本記事では、技術を選ぶ前に決めておくべきことを整理します。

1. 技術から入ると何が起きるか

識別技術の導入でよく見られるのが、次のような経緯です。

  • RFIDを導入したが、期待した分析ができないケース:パレット単位でタグを貼ったため、入出庫の実績は取れるようになったが、ケース単位の在庫差異を追えるようにはならなかった。
  • 読み取りポイントが足りず、工程間の時間が分からないケース:出荷検品でのスキャンは導入したが、ピッキング開始時点の記録がないため、工程の所要時間を算出できない。
  • 取得したIDが他システムとつながらないケース:スキャンしたコードがWMSの商品コードと体系が異なり、在庫データとの突合に追加の変換処理が必要になった。
  • いずれも技術そのものの問題ではありません。「何を、どの単位で、どの時点で識別するか」という設計が先に決まっていなかったことが原因です。

    識別技術は、この設計を実現するための手段です。手段の比較から入ると、目的との整合が後回しになります。

    2. 技術選定の前に決める3つのこと

    1
    何を識別するか——識別する対象と単位
    同じ「商品を識別する」でも、単位によって取得できる情報が変わります。単位が細かいほど詳細な分析が可能になりますが、その分ラベル貼付や読み取りの作業負荷も増えます。
    2
    どの時点で識別するか——読み取りポイント
    読み取りが発生した時点が、データの記録時点になります。つまり読取ポイントの設計が、そのまま「どの工程の時間を測れるか」を決めます。
    3
    IDをどう体系化するか——他システムとの整合
    読み取ったIDが、WMSの商品コードや作業員IDと突合できる体系になっているかを確認します。ここが揃っていないと、取得したデータを分析に使う際に変換処理が必要になります。

    ①識別単位——どこまで細かく分けるか

    物流現場では、管理対象をどこまで細かく識別するかによって、取得できるデータの粒度が変わります。代表的な管理単位を粗いものから細かいものへ整理すると、次のようになります。

    パレット
    →
    ケース
    →
    商品(SKU)
    →
    ロット
    →
    個品(シリアル)
    左ほど粗く、右ほど細かい
    識別単位 分かること 運用面の負荷
    パレット 入出庫の実績、保管場所の移動 小さい。1枚のラベルで多数の商品を扱える
    ケース ケース単位の在庫、出荷実績 中程度。入荷時のラベル貼付が必要になる場合がある
    商品(SKU) 商品別の在庫数、ピッキング実績 小さい。多くの商品に既存のJANコードが印刷されている
    ロット 賞味期限・製造ロットの管理、トレーサビリティ 中〜大。ロット情報を持つラベルの運用が必要
    個品(シリアル) 1点ごとの所在・履歴の追跡 大きい。1点ずつのラベル貼付と読み取りが発生する

    ここでの判断基準も、第1回から一貫して「どのKPIを改善したいか」です。ピッキングの人時生産性を測るのであれば商品単位で足りますが、賞味期限管理や個品トレースが目的であれば、より細かい単位が必要になります。

    細かくすれば良いわけではない

    識別単位を細かくすると、分析の自由度は上がりますが、ラベルの貼付作業・読み取り回数・マスタ管理の負荷も同時に増えます。

    現場の作業負荷が増えた結果、読み取りが飛ばされるようになれば、データの欠損につながります(第4回参照)。運用が続けられる範囲で設計することが、結果的にデータ品質を守ります。

    ②読取ポイント——データが発生する場所を決める

    ここは見落とされやすい点です。読み取りが発生した時点でしかデータは記録されません。つまり、読取ポイントの設計が、測定できるKPIの範囲を決めます。

    測りたいこと 必要な読取ポイント
    ピッキングの人時生産性 ピッキング開始と完了の記録(作業単位または商品単位)、作業者との紐付け
    工程間のリードタイム 各工程の完了時点(入荷・検品・格納・ピッキング・出荷)
    在庫差異の発生工程 入荷・格納・ピッキング・出荷の各時点での数量記録
    出荷進捗率 出荷確定時点の記録(オーダー単位または配送便単位)

    「工程間のリードタイムを分析したい」と考えていても、読取ポイントが出荷時点にしかなければ、工程ごとの所要時間は算出できません。第2回で整理した「収集項目・粒度・頻度」の設計は、識別の場面では読取ポイントの設計として現れます。

    ③ID体系——他システムとつながる形にする

    読み取ったIDが、WMSやERPのコード体系と一致しているかは、事前に確認すべき点です。

    たとえば、入荷時にJANコードを読み取っていても、WMSが自社の独自商品コードで管理していれば、両者を紐づけるマスタが必要になります。このマスタが整備されていないと、読み取ったデータを在庫データと突合できません。

    この論点は「データはあるのに分析できない——物流DXを阻む3つのデータ連携の壁」で「データ設計の壁」として整理したものと同じです。識別技術を導入する際も、この壁は避けて通れません。

    3. そのうえで、技術の違いを見る

    ①〜③が決まってはじめて、それを実現する技術の比較に意味が生まれます。

    技術 特性 留意点
    バーコード
    二次元コード
    導入コストが低い。既存のJANコードを活用できる場合がある。1点ずつ確実に読み取る運用に適する 1点ずつの読み取りになるため、点数が多いと作業時間がかかる。汚れや破損で読めなくなることがある
    RFID 非接触で複数タグを一括して読み取れる。棚卸や所在管理での時間短縮に効果が出やすい タグ・機器のコストがバーコードより高い。金属や液体の影響を受ける場合がある。タグ貼付作業の負荷も考慮が必要
    画像認識 ラベルを貼れない対象や、形状・数量の確認に活用できる場合がある 照明条件や対象物のばらつきの影響を受ける。導入前に自社の対象物での検証が必要

    ※特性・コストは製品や運用条件によって異なります。導入検討時は個別の確認が必要です。

    重要なのは、どれが優れているかではなく、設計した識別単位と読取ポイントを、どの技術なら無理なく実現できるかという視点です。

    たとえば「入荷時にパレット単位で一括登録したい」のであればRFIDの一括読み取りが適しますが、「ピッキング時に商品を1点ずつ確認したい」のであればバーコードで十分な場合があります。複数の技術を工程ごとに使い分ける設計も現実的な選択肢です。

    識別技術は、データを発生させる仕組みです。どの技術を使うかによってデータの取りやすさは変わりますが、「何を・どの単位で・どの時点で記録するか」を決めるのは技術ではなく設計です。この順序が逆になると、導入後に「取れると思っていたデータが取れない」という結果になります。

    4. 識別設計は、KPI設計とつながっている

    ここまで見てきたとおり、識別単位と読取ポイントの設計は、そのまま「どのKPIを算出できるか」を決めます。

    第1回で述べた「改善したいKPIから逆算する」という考え方は、識別技術の選定においても同じです。順序としては、次のようになります。

  • 改善したいKPIを決める:人時生産性、リードタイム、在庫精度など
  • そのKPIに必要な記録を洗い出す:どの工程の、どの単位の、どの時点の記録が必要か
  • 読取ポイントと識別単位を設計する:現場の作業負荷とのバランスを取りながら決める
  • 実現できる技術を選ぶ:バーコード、RFID、画像認識、あるいはその組み合わせ
  • この順序であれば、導入した技術が分析目的と整合しない、という事態を避けやすくなります。

    まとめ:技術の比較は、設計のあとに行う

    バーコード・RFID・画像認識には、それぞれ得意な領域があります。しかし、どの技術を選んでも、識別単位と読取ポイントの設計が不十分であれば、必要なデータは得られません。

    先に決めるべきは、何を・どの単位で・どの時点で識別するか、そしてそのIDが他システムとつながる体系になっているかです。技術の比較は、そのあとで行っても遅くありません。

    データ収集の目的は、データを増やすことではありません。
    現場改善に必要なデータだけを、分析できる形で残すことです。
    次回は本シリーズの最終回です。「集めたデータはどう分析につながるのか?」——ここまで整理してきたデータ収集の設計が、KPI可視化や改善アクションにどうつながるのかを解説します。
    倉庫データ活用の最初の設計からご相談いただけます

    どのデータを取得すべきか、どの粒度・取得間隔で集めるべきか、既存のWMSや設備データをどう活用できるか——改善したいKPIから逆算したデータ設計を支援します。Nexa Warehouse-Optimizerは、収集したデータをもとにKPIを可視化する分析基盤です。

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