COLUMN
コラム

コラム | 物流データ収集入門 第7回 | 2026年8月24日

古い設備でもデータ活用は始められる
—設備を入れ替えずにデータを取る4つの方法

既存設備からのデータ取得イメージ
この記事でわかること
・設備を入れ替えずにデータを取得する4つのアプローチ
・設備データが取れない場合でもKPI改善を始められる理由
・どこから着手すべきかの判断基準
本記事は「物流データ収集入門」シリーズの第7回です。第6回までは、データを「どう集め、どう品質を守り、どこまで送るか」を整理してきました。今回は、その前提となる「そもそも既存の設備からデータを取れるのか」という問いに向き合います。

データ活用の相談で最もよく聞く声のひとつが、「うちの設備は古いので、データ活用はまだ難しい」というものです。

導入から10年以上経過した自動倉庫、通信機能を持たないコンベア、紙の帳票で管理している検品工程——こうした環境では、データ収集は設備更新のタイミングまで待つしかない、と考えられがちです。

しかし実際には、設備を入れ替えなくてもデータを取得する方法は複数あります。さらに言えば、設備データがなくてもKPI改善に着手できるケースも少なくありません。

1. 設備からデータを取る4つのアプローチ

既存設備からデータを取得する方法は、設備側の対応状況によって選択肢が変わります。負担の小さい順に整理します。

1
設備の通信機能を使う
PLCを搭載した設備であれば、産業用プロトコル経由でデータを取り出せる場合があります。IoTゲートウェイを介してクラウドが受け取れる形式に変換する方法です。
適するケース:PLC制御の自動倉庫・ソーター・コンベアなど。詳細は「データはあるのに分析できない——物流DXを阻む3つのデータ連携の壁」で解説しています
2
既存の出力信号を取り込む
通信機能がなくても、設備が外部出力用の接点信号を持っている場合があります。稼働中・停止中・異常発生といった状態を電気信号として出力しているケースです。この信号をゲートウェイやI/Oユニットで受け取れば、稼働状況を記録できます。
適するケース:制御盤に外部出力端子がある設備。設備本体を改造せず、配線の追加で対応できる場合がある
3
後付けセンサーで外から観測する
設備側に手を加えられない場合、外部から状態を観測するセンサーを後付けする方法があります。代表的なのが積層信号灯(パトライト)の点灯状態をセンサーで読み取る方式で、稼働・停止・異常の判別に利用されています。ほかにも、振動センサーで稼働状態を推定する、光電センサーで通過数をカウントするといった方法があります。
適するケース:設備の改造・配線工事が難しい環境。設備メーカーの保証範囲に影響しにくい点も利点
4
設備以外のデータで代替する
設備そのものからデータが取れなくても、その設備を使った作業の実績はWMSやハンディ端末に記録されている場合があります。設備の稼働ログの代わりに、業務データから工程の所要時間や処理数量を把握するアプローチです。
適するケース:設備の稼働率よりも、工程全体の生産性やボトルネックを把握したい場合
どの方法を選ぶかは「何を知りたいか」で決まる

①〜③は設備の状態を直接把握する方法、④は業務側から間接的に把握する方法です。

設備の停止要因を分単位で分析したいなら①②③が必要ですが、「どの工程がボトルネックか」を知りたいだけなら④で足りる場合もあります。技術的な可否より先に、第1回で整理した「どのKPIを改善したいか」を確認することが、無駄な投資を避ける近道です。

2. 設備データがなくても始められる

ここは、多くの現場で見落とされている点です。

倉庫のKPIのうち、設備データが必須なものは実はそれほど多くありません。人時生産性、工程別の処理数量、出荷の進捗率といった主要な指標は、WMSやハンディ端末の記録から算出できます。

KPI 主なデータ源 設備データの必要性
人時生産性 WMSの作業記録、勤怠システム 必須ではない
工程別の処理数量 WMS、ハンディ端末のスキャン記録 必須ではない
出荷進捗率・完了予測 WMSの出荷指示・実績データ 必須ではない
工程間リードタイム 各工程の完了記録(WMS・ハンディ端末) 必須ではない
設備稼働率 設備の稼働ログ 必要
設備起因の停止分析 設備の稼働ログ・異常ログ 必要

なお、設備を使う工程では、より詳細な分析を行う際に設備データが補助的に役立つ場合もあります。ここでの「必須ではない」は、設備データがなくてもKPIを算出できるという意味です。

設備データが必要になるのは、主に「設備そのものの稼働状況を評価したいとき」です。逆に言えば、人員配置やシフトの改善、工程のボトルネック特定といった課題であれば、設備データを待たずに着手できます。

「設備が古いからデータ活用ができない」のではなく、「設備データが必要なKPIに、いきなり取り組もうとしている」というケースが少なくありません。改善したい課題によっては、既存のWMSデータだけで分析を始められます。

3. 現実的な進め方——3ステップ

既存設備の環境でデータ活用を始める場合、次の順序で進めると着手のハードルが下がります。

STEP 1
今あるデータで始める
WMS・ハンディ端末・勤怠のデータで算出できるKPIから可視化する。設備投資が不要なため、比較的短期間で分析を始め、改善余地を確認しやすい。
→
STEP 2
見えない部分を特定する
STEP 1の分析で「ここが分からない」という箇所が具体化する。設備データが本当に必要な範囲がここで明確になる。
→
STEP 3
必要な設備から取得する
対象を絞ったうえで、①〜③の方法から設備の状況に合う手段を選ぶ。全設備を一度にIoT化する必要はない。

この順序が有効なのは、STEP 1の段階で「何が見えていないか」がはっきりするからです。最初からすべての設備をIoT化しようとすると、投資判断が難しくなり、結果として着手が遅れます。

また、設備データの取得は対象を絞るほど費用を抑えられます。全ラインではなく、ボトルネックと判明した1工程から始める——この進め方であれば、初期投資を限定できます。

後付けでデータを取得する際の確認事項

・設備の保証・保守契約への影響(改造扱いになる場合があるため、設備メーカーへの事前確認が必要)
・電源の確保(センサーやゲートウェイの設置場所に電源があるか)
・ネットワークの到達性(無線が届くか、有線を引けるか)
・取得したデータの時刻同期(第5回で解説したとおり、後付け機器の時刻がずれると分析に影響します)

4. 「設備が新しくないと始められない」わけではない

データ活用の相談で設備の年式が話題になるのは自然なことですが、それが着手の可否を決めるとは限りません。

実際には、設備の年式よりも「改善したい課題が明確かどうか」の方が、データ活用の成否を左右します。課題が明確であれば、必要なデータの範囲が絞られ、既存の仕組みで代替できる部分と、追加の取得が必要な部分が判断できます。

逆に、課題が定まらないまま「まず設備をIoT化しよう」と進めると、取得したデータの使い道が決まらず、投資が回収できないという結果になりがちです。

まとめ:設備の年式ではなく、課題から考える

古い設備でも、通信機能・接点信号・後付けセンサーといった方法でデータを取得できる場合があります。そして、設備データがなくても、WMSやハンディ端末のデータだけで算出できるKPIは複数あります。

重要なのは、設備更新を待つことではなく、今あるデータで何が見えるかを確認し、そこから足りない部分を補っていくことです。

データ収集の目的は、データを増やすことではありません。
現場改善に必要なデータだけを、分析できる形で残すことです。
次回は、「バーコード・RFID・画像認識の違いより重要な『データ設計』」——識別技術の選定より先に決めるべきことを解説します。
倉庫データ活用の最初の設計からご相談いただけます

どのデータを取得すべきか、どの粒度・取得間隔で集めるべきか、既存のWMSや設備データをどう活用できるか——改善したいKPIから逆算したデータ設計を支援します。Nexa Warehouse-Optimizerは、収集したデータをもとにKPIを可視化する分析基盤です。

既存設備のままで何ができるかの確認からでもご相談いただけます。

お問い合わせはこちら