製造業・小売業の自社倉庫こそ、
データ分析が必要な理由
・「物流は本業ではない」という前提が、なぜ改善機会の見落としにつながるのか
・荷主企業の自社倉庫に特有の「見えにくさ」の構造的な理由
・データで実態を把握できていない荷主の現実——国交省調査が示す認識ギャップ
・専任担当者がいなくても始められる、自社倉庫のデータ活用の入口
「うちは物流会社じゃないから」——製造業や小売業の物流担当者から、こうした言葉を聞くことがあります。自社の倉庫を持ちながらも、物流はあくまで「本業を支える機能のひとつ」であり、精緻な管理を追求するより、動いていることが重要だ、という感覚です。
この感覚は、間違っているわけではありません。しかし「本業ではないから、ある程度は仕方ない」という前提が積み重なると、倉庫の非効率が見えないまま毎月のコストとして定着するという構造が生まれます。
本記事では、製造業・小売業の自社倉庫で改善が進みにくい構造的な理由を整理し、データ活用をどこから始めればよいかを解説します。
- 倉庫の人件費が、物流コストとして単独で集計・管理されていない
- 出荷1件あたりの作業コストを、数字で把握したことがない
- 残業が増えた月に、「繁忙期だから」以上の原因分析をしていない
- 工程ごとにどこで時間がかかっているか、データで確認したことがない
- 今日の出荷が間に合うかどうかの判断が、管理者の感覚に頼っている
- WMSのデータをExcelに転記して集計するのが月次レポートの現状である
なぜ荷主企業の自社倉庫ではデータ活用が進みにくいのか
製造業・小売業の自社倉庫が改善しにくい理由は、担当者の能力や意識の問題ではありません。構造的に「問題が見えにくく、改善のきっかけが生まれにくい」設計になっていることが多いのです。
理由① 外部からの改善圧力がない
物流業務を外部の事業者に委託している場合、荷主企業はKPIをもとに委託先の品質を評価し、改善を求めます。委託先にとっては「改善できなければ契約を失う」という緊張感が常にあります。
自社倉庫の場合、荷主と運営者が同一の組織です。出荷が多少遅れても、人件費が少し膨らんでも、「社内の話」として処理されます。改善を強制する外部の視点がない分、「今の状態が正常かどうか」を問い直す機会が生まれにくい構造があります。
理由② コストが「物流費」として見えない
製造業や小売業の自社物流では、倉庫作業の人件費が製造原価や労務費として計上されるケースがあります。運送会社への委託費のように、毎月請求書で数字が届くわけではありません。「倉庫のコストが先月より高かった」という比較がそもそも行いにくい構造です。
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会の調査(2023年度)によれば、物流コストの内訳のうち輸送費が55.2%を占め、次いで荷役費・包装費・管理費等が29.1%、保管費が15.7%となっています。倉庫に関わる荷役費・保管費を合わせれば45%近くを占めますが、この領域は運賃のように単独で可視化されることが少なく、改善の対象として取り上げられにくい傾向があります。
出典:公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2023年度 物流コスト調査報告書(概要版)」
理由③ 現場の実態が経営側に届いていない
国土交通省が実施したトラック輸送状況の実態調査(2021年)では、荷待ち時間の発生について、物流事業者側は7割以上が「発生している」と回答したのに対し、荷主側の認識は2割程度にとどまるという結果が出ています。同じ現場で起きている出来事に、50%を超える認識のギャップがありました。
これは荷待ち時間に限った話ではありません。倉庫の中で何が起きているか——どの工程で時間がかかっているか、何時に出荷が完了する見込みか、どの作業者の生産性が落ちているか——そういった情報が、経営や管理層にデータとして届く仕組みがない現場は少なくありません。問題が「見えていない」のではなく、「見える仕組みがない」状態です。
出典:国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果(2021年)」
「WMSがある」と「データが使えている」は違う
自社倉庫にWMSを導入している企業では、「データはある」と思いがちです。確かに、WMSには日々の出荷指示・在庫情報・作業完了記録が蓄積されています。しかしそのデータが「改善の判断に使える形になっているか」は別の問題です。
WMSの設計目的は、「何を・どこで・いつ処理するか」を正確に管理し、誤配や欠品を防ぐことです。作業の効率がどの程度か、どの工程で生産性が落ちているか、今日の出荷ペースで間に合うかどうか——こうした問いへの答えは、WMSのデータを別途加工・分析する手順を踏まなければ得られないことが多くあります。
多くの現場では、WMSのデータをExcelに書き出して集計し、月次でレポートを作成する、という運用が続いています。この方法では、問題が起きてから翌月に「先月は残業が多かった」と確認することはできますが、「今日間に合うか」「どこが詰まっているか」をリアルタイムで把握することは難しい状態です。
WMSが担うのは「作業を正しく実行すること」——在庫管理・出荷指示・誤配防止です。倉庫分析ツールが担うのは「効率的に実行できているかを確認すること」——人時生産性の可視化・進捗予測・シフトの最適化です。両者は置き換えではなく、補完関係にあります。詳しくは「WMSのレポート機能で十分?—倉庫分析ツールとの違いを比較」をご参照ください。
「専任担当者がいない」からこそ、スモールスタートが合う
「データ分析は専任の担当者が必要だ」「IT部門がないとできない」——こう思われる方も多いですが、製造業・小売業の自社倉庫が最初に必要とするのは、高度な分析基盤ではありません。
現場管理者が日々の業務で直面する問いは、シンプルです。「今日の出荷は間に合うか」「どの工程に応援を出すべきか」「来月の繁忙期に何人必要か」——これらに答えられる状態が、データ活用の出発点です。
- 「たぶん間に合う」で当日を乗り切る
- 残業が増えても原因が分からない
- シフトはベテラン担当者の勘に頼る
- 問題が起きてから翌月に把握する
- 出荷完了予測時刻をリアルタイムで確認
- どの工程が詰まっているか即特定
- 出荷量から必要人時を逆算してシフト設計
- 前日・前週の実績を改善に活かす
Nexa Warehouse-Optimizerでは、既存のWMSとデータを連携し、KPI可視化・予実管理・シフトシミュレーションを追加できます。WMSからのデータ出力とクラウドへのアップロードから始めることができ、現在の設備やシステムを置き換える必要はありません。
物流DXに本格的に取り組んでいる荷主企業はまだ多くないのが実態ですが、それは「必要がない」からではなく、「どこから始めればいいか分からない」「大がかりな投資が必要と思っていた」という理由によるケースが少なくありません。最初の一歩は、今の現場のWMSデータを改善に使える形で見ることから始まります。
KDDI物流センターの事例から見る、自社倉庫のデータ活用
KDDIの物流センターにNexa Warehouse-Optimizerを導入した実証実験では、工程別の人時生産性を可視化し、人員配置・シフト最適化に活用することで、スマートフォン個人向け出荷において作業効率が従来比1.4倍になる成果が確認されました(2023年度実証・2024年8月商用開始)。
KDDIの物流センターも、物流専業事業者ではなく通信業を本業とする荷主企業の自社倉庫です。「物流は本業ではない」企業においても、データに基づく人員配置の見直しが生産性向上につながることを示す事例です。
出典:導入事例:KDDI物流センター—人員配置・シフト最適化で出荷能力1.4倍に
自社倉庫のデータ活用は、「大規模な投資をして整える」ものではなく、「今あるWMSのデータを改善に使える形で見る」ところから始まります。まずは現在のWMSから出力できるデータを確認することが、最初の一歩です。
Nexa Warehouse-Optimizerは、既存のWMSデータをもとに次の3つを提供します。
・工程別・作業員別の人時生産性の可視化
・今日の出荷が間に合うかのリアルタイム予測
・蓄積した実績データを使ったシフトシミュレーション
設備やWMSを入れ替えることなく、分析機能だけを追加できます。まずは現在お使いのWMSからどのようなデータが取得できるかを確認し、そのデータでどこまで可視化できるかをご提案します。
「物流改善をしたいが、何から始めればいいか分からない」という状態でも問題ありません。現在お使いのWMSや運用状況をもとに、改善に活用できるデータの整理からご相談いただけます。