「今日は終わるのか」を、
朝の時点で判断できるか
物流を、数字で考える|その課題、どの数字を見れば判断できるのか
「15時を過ぎたあたりで、ようやく『今日は終わらない』と分かるんです。そこから応援を頼んでも、もう間に合わない。結局、残業で取り戻すしかない」
出荷の締めに間に合うかどうかは、現場管理者にとって毎日いちばん気になる問いです。ところが、その答えがはっきりするのは、たいてい夕方になってからです。進み具合を見て「どうもまずい」と感じ始め、気づいたときには打てる手がほとんど残っていない。
もし同じことが、朝の時点で分かっていたらどうでしょうか。
・「終わらない」と分かるのが、なぜいつも夕方になるのか
・朝の時点で、今日の見通しを立てるために見ておきたい5つの数字
・完了時刻の見込みは、1点で当てにいくものではなく、幅で持つもの
・朝に見通しが立つと、何が変わるのか
よくある打ち手:経験で見通す、精度の高い予測を求める
朝の時点で今日の見通しを立てる方法として、多くの現場で頼りにされているのは、経験のある管理者の感覚です。今日の物量と人員を見て、「今日は厳しそうだ」「今日はいける」と判断する。この感覚は、多くの場合かなり当たります。
一方で、感覚に頼る限界を感じている現場では、「精度の高い予測の仕組みが必要だ」という声も出てきます。過去のデータを学習して、完了時刻を正確に予測するシステムがあれば、朝から手が打てるはずだ、という考え方です。
どちらも、目指すところは正しいものです。ただ、どちらかに進む前に、確かめておきたいことがあります。
その打ち手が外れるとき
ある物流センターでは、締めに間に合わない日が月に何度もあり、完了時刻を予測する仕組みの導入が検討されていました。いまの管理者の見立てでは、朝の時点で「今日は危ない」と分かるのは、せいぜい半分程度の日だったからです。
検討の前に、朝の時点で手元にある数字を並べてみることにしました。始業時に確定していたオーダーの量。過去の同じ曜日に、朝の確定量が最終的な物量の何割だったか。物量や人員の条件が近い日の、人時あたりの処理量。どれも、WMSと勤怠の記録から出せる数字でした。
これらを使って、締め時刻から逆算してみると、遅れた日の多くは、朝の時点ですでに「このままでは間に合わない」計算になっていたのです。数字は揃っていました。ただ、誰もその数字を並べて、締めから逆算していなかったのです。
実は、朝の時点で必要な数字は揃っていて、誰も逆算していなかっただけだった。
予測の仕組みが不要だったわけではありません。ただ、高度な予測を入れる前に、手元の数字で朝の見通しを立てるところまでは、すでに手が届いていた可能性があります。その一歩があれば、より高い精度が必要なのはどこか、という次の問いも見えてきます。
では、何を見るか:朝の時点で見通しを立てる5つの数字
朝の時点で「今日は終わるのか」を見通すために、見ておきたい数字を5つ挙げます。出荷が終わらない原因は、人不足とは限らないは、終わらなかった後に原因を探る記事でした。それに対して、この記事では、始まる前に見通すための数字を扱います。
1 朝時点でのオーダー確定率
| 定義 | 始業時に確定していた物量が、その日の最終物量に占める割合(過去の実績から算出する) |
| 見方 | 過去の実績を曜日ごとに並べ、朝の時点で何割が見えているかを確かめる |
| 分かること | 朝の時点で、今日の物量をどこまで見積もれるか |
朝に見えている物量が最終的な物量の9割なら、朝の見通しはかなり当てになります。5割しか見えていないなら、朝の時点の見通しは大きく外れる可能性があります。確定率が低い場合は、予測の精度を上げる前に、受注情報がいつ、どう届いているかを確かめるほうが先かもしれません。
2 過去実績から逆算した人時生産性
| 定義 | 物量や曜日など、条件の近い日の処理量 ÷ 投入人時 |
| 見方 | 過去の実績から、今日に近い条件の日を数日拾い、その平均と、日ごとの上下の幅を見る |
| 分かること | 今日の人員で、何個処理できるかの基準値 |
「今日の人員で、どれだけ処理できるか」を、勘の代わりに数字で言うための基準値です。センター全体の平均ではなく、今日に近い条件の日を拾うのがポイントです。物量の多い日と少ない日では、同じ人員でも生産性は変わります。平均だけでなく、条件の近い日でもどれくらい上下するかを合わせて見ておくと、5つ目の数字にもつながります。
3 工程別の必要処理速度と実績処理速度
| 定義 | 締め時刻から逆算した、工程ごとに必要な処理速度と、過去実績の処理速度 |
| 見方 | 工程ごとに「必要な速度」と「出せる速度」を並べ、差の大きい工程を探す |
| 分かること | どの工程が、最初に間に合わなくなるか |
センター全体で見て間に合いそうでも、ある工程だけが必要な速度に届かなければ、全体の完了時刻はその工程で決まります。朝の時点で、どの工程に余裕がなく、どの工程に余裕があるかが分かれば、応援をどこからどこへ回すかの見当を、作業が始まる前につけておけます。
4 予実の差が開く時刻
| 定義 | 計画の進捗線と、実績の進捗線が離れ始める時刻 |
| 見方 | 過去の遅れた日について、計画と実績の差がいつから開き始めたかを並べる |
| 分かること | 「気づいた時には手遅れ」を避けるために、いつ確認すればよいか |
締めに遅れた日を振り返ると、計画と実績の差は、夕方ではなく午前中に開き始めていることがよくあります。差が小さいうちは目立たず、午後になって大きくなってから初めて気づく。差が開き始める時刻が分かっていれば、その時刻に一度確認するだけで、手を打つタイミングを前に倒せます。朝の見通しは、この確認と組み合わせて初めて活きてきます。
5 変動要因の発生頻度
| 定義 | 追加オーダー・欠員・設備停止などが起きた日の割合 |
| 見方 | 過去数か月で、それぞれが起きた日が何日あったか、起きたときにどれくらい遅れたかを数える |
| 分かること | 見通しに、どれくらいの幅を持たせるべきか |
朝の見通しを1つの時刻で当てにいくと、変動要因が起きるたびに外れます。追加オーダーが週に2回は来る、月に数回は欠員が出る、ということが分かっていれば、それを前提にした幅を持てます。変動が起きることを想定していない見通しは、当たらないことのほうが多くなります。
完了時刻は、当てにいくものではなく、幅で持つもの
5つの数字を揃えたとき、出てくる見通しは「16時52分に終わる」という1つの時刻ではありません。
「16時〜17時半、追加オーダーが来たら18時」。これが、朝の時点で実用的な見通しの形です。前半の「16時〜17時半」は、条件の近い日の生産性の上下から見た幅です。後半の「追加オーダーが来たら18時」は、それとは別に、変動要因が起きた場合のシナリオです。種類の違う不確かさを分けて持っておくと、何が起きたら見通しが動くのかが分かりやすくなります。幅の上の端が締め時刻を超えているなら、朝のうちに手を打つかどうかを考える。超えていなければ、予実の差が開きやすい時刻に一度確認する。それだけで、夕方に慌てる日は減らせる可能性があります。
そして、幅のある見通しには、もう一つの使い道があります。夕方に実際の完了時刻が出たとき、それが幅の中に収まったのか、外れたのかを確かめられることです。外れたなら、物量の見込みがずれたのか、生産性がずれたのか、想定していない変動が起きたのか。外れ方を見ることで、次の日の見通しの持ち方を直していけます。
ここで扱っているのは、センター全体をおおまかに見た見通しです。実際の完了時刻は、工程どうしの影響や、オーダーの届き方の偏りによって動きます。手元の数字で立てた見通しには限界があり、その限界がどこにあるかを知っておくことも、見通しを使ううえで欠かせません。
数字で試してみる
始業時刻と締め時刻、朝の時点の確定物量と確定率、今日の人員と、条件の近い日の人時生産性を入れると、完了時刻の見込みを幅で表示します。初期値は、標準的には締めに間に合うものの、生産性が低めに出ると遅れる状態にしてあります。幅の上の端は、締め時刻を超えているでしょうか。手元の数字に置き換えて確かめてみてください。
ここまで見て、打ち手を考えられる
「今日は終わるのか」が夕方にしか分からないのは、必ずしも予測の仕組みがないからではありません。朝の時点で手元にある数字を並べ、締め時刻から逆算していないだけ、ということもあります。
朝の時点で見通しが立てば、打ち手の選択肢が残っています。応援を頼む、作業の順番を入れ替える、締めの早い出荷を先に流す、残業の準備を早めにかける。夕方に分かっても、残る選択肢はほとんど残業だけです。どの手を選ぶかは現場によって違いますが、選べる手の数は、見通しが立つ時刻で大きく変わります。
「今日は終わるのか」を、夕方に知るのではなく、
朝の時点で、幅を持って見通す。
見通しが外れたら、その外れ方が、次の日の見通しを良くしていきます。
この記事の計算は、センター全体を1つの工程として見た割り算です。工程ごとの処理速度や時間帯ごとの物量まで含めて、実績データから今日の見通しを立てることもできます。
「朝の時点で、今日の見通しを数字で説明したい」という段階が、ちょうど入口です。
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