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コラム | 物流を、数字で考える | 2026年10月19日

AGVを入れるか、
人を増やすか

物流を、数字で考える|その課題、どの数字を見れば判断できるのか

保管棚の並ぶ倉庫の通路を走行するAGV

「採用しても人が定着しない。来年はもっと集まらないかもしれない。そろそろAGVを入れる時期じゃないか」

人手の確保が年々難しくなる中で、自動化の検討はどの物流センターでも避けて通れない話題になっています。一方で、「設備は高い。回収できるのか。今年はもう一度、人を増やしてしのぐべきではないか」という声もあります。

AGVを入れるか、人を増やすか。この問いは、どちらか一方が正しいという形では答えが出ません。そして、比べる前に揃えておきたい数字があります。

この記事で扱うこと
・自動化しても全体が変わらないとき、何が起きているのか
・自動化の効果が出る場所かを確かめる5つの数字と、その先の費用比較
・自動化は「その工程の制約」を外す打ち手である、という見方
・どちらを選ぶかを考える前に、確かめておきたいこと

よくある打ち手:自動化するか、人で対応するか

人手不足への打ち手として、大きく二つの方向があります。一つは、AGVや自動搬送、ソーターなどの設備を入れて、人の作業そのものを減らすこと。もう一つは、採用や派遣、応援で人を増やし、いまのやり方のまま処理能力を上げることです。

どちらにも理があります。設備は、採用の状況に左右されず、導入した能力を前提に日々の運用を組み立てられます。長い目で見れば人件費の上昇にも備えられます。人は、物量の増減に合わせて増やしたり減らしたりでき、作業の変化にも柔軟に対応できます。

実際に、搬送のように単純で繰り返しの多い作業が大きな割合を占め、しかもそこが全体の流れを止めているなら、自動化は強い打ち手になります。ただ、投資の規模が大きいぶん、比べる前に確かめておきたいことがあります。

その打ち手が外れるとき

ある物流センターでは、構内の搬送にかかる負担が大きいという現場の声を受けて、AGVの導入が検討されていました。ピッキングした商品を梱包エリアまで運ぶ作業に、毎日多くの人が歩き回っていたからです。

検討の過程で、作業ごとの人時を洗い出してみました。すると、搬送にかかっている人時は、全作業時間の15%ほどでした。一方、梱包には全体の3割近い人時がかかっていて、しかも出荷の締め前には、梱包の入口に荷物が溜まっていました。

搬送を自動化しようとしていた。
実は、搬送は全作業時間の15%ほどで、梱包のほうが大きかった。

搬送にかかっていた人時がすべてなくなると仮定しても、減らせる人時の上限は15%です。しかも全体の完了時刻を決めていたのは梱包でした。搬送が速くなれば、梱包の前に届く荷物が早く積み上がるだけかもしれません。「いちばん大変そうに見える作業」と「自動化で全体が変わる作業」は、必ずしも一致しません。

これは、自動化が間違っていたという話ではありません。この現場で先に比べるべきだったのは、「AGVか増員か」ではなく、「どの工程の、どんな制約を外すのか」だった、ということです。

では、何を見るか:効果が出る場所かを確かめる5つの数字

AGVと増員を比べる前に、まず確かめておきたいのは、自動化しようとしている場所が、そもそも効果の出る場所なのかです。そのための数字を5つ挙げます。どちらを選ぶかの答えを出すための数字ではなく、比べる前の前提を揃えるための数字です。

1 対象工程が総作業時間に占める比率

定義自動化しようとしている工程の人時 ÷ 倉庫作業全体の人時
見方入荷から出荷までの工程ごとに人時を出し、対象工程の比率を確かめる
分かること自動化で減らせる人時の上限

対象工程が全体の15%なら、その工程を完全に自動化しても、減らせる人時は最大で15%です。実際には、設備に置き換えられない作業が残り、設備を動かすための新しい作業も生まれるので、効果はこの上限より小さくなります。上限を知らないまま効果を見積もると、期待値だけが先に膨らみやすくなります。

2 ピーク倍率

定義ピーク時(繁忙日や繁忙時間帯)の物量 ÷ 平均的な物量
見方日別・時間帯別の物量から、最大と平均の比を出す
分かること能力が固定される設備と、増減できる人の、どちらが波に合わせやすいか

設備の処理能力は、導入時に一定の能力を前提として設計され、人員のように日々の人数を簡単に増減させることはできません。ピークに合わせて設備を入れると、通常の日には能力が余ります。平均に合わせて入れると、ピークの日には人の応援が必要になります。一方、人は物量に合わせて増減させやすい。物量の波がどれだけあるかによって、設備の能力をどこに合わせるか、その前提が変わってきます。

3 年間稼働時間

定義対象作業が発生し、設備を稼働させる年間の時間
見方1日の稼働時間 × 年間稼働日数から、設備を実際に使う時間を確かめる
分かること設備投資を、どれだけの時間に分散できるか

設備の費用は、動いていても止まっていてもかかります。同じ設備投資額でも、年間の稼働時間が長いほど、1時間あたりに換算した設備費は小さくなります。1日8時間×年250日の現場と、2交代で16時間×年300日の現場では、同じ設備でも使える時間が2倍以上違います。人の費用は働いた時間に比例しますが、設備の費用は稼働時間が長いほど薄まります。設備の投資回収は、年間の稼働時間に大きく左右されます。

4 自動化後に残る手作業

定義対象工程の前後で、自動化したあとも人が行う作業
見方設備への荷の積み付け・荷受け・例外品の扱い・トラブル対応などを洗い出す
分かること「人がゼロになる」前提で試算していないか

搬送をAGVに置き換えても、AGVに荷を載せる人、降ろす人は必要です。サイズや重さの合わない商品は人が運び、設備が止まれば人が対応します。自動化の試算が崩れる原因の多くは、この「残る作業」の見落としにあります。削減できるのは、対象工程の人時そのものではなく、対象工程の人時から残る作業を引いた分です。

5 ボトルネックの位置

定義全体の完了時刻を決めている工程がどこにあるか
見方工程ごとの入口の滞留量と、その増え方を見る
分かること自動化で、全体の完了時刻が変わるかどうか

工程ごとの滞留を見る考え方は、出荷が終わらない原因は、人不足とは限らないで扱いました。対象工程がボトルネックでなければ、その工程を速くしても、全体の完了時刻はほとんど変わりません。人時は減っても、「締めに間に合わない」という悩みは残ります。AGVが減らすのは人時であり、完了時刻を縮めるかどうかは、その工程が全体を止めているかで決まります。

効果が見込めたら、次に費用を比べる

ここまでの5つの数字は、「そもそも自動化の効果が出る場所なのか」を確かめるための数字です。AGVと増員の費用を比べるのは、その次の段階になります。

段階 問い 見る数字
第1段階 効果が出る場所か 対象工程の比率、ピーク倍率、年間稼働時間、残る手作業、ボトルネックの位置
第2段階 投資に見合うか 年間の削減人時、人件費、設備の導入費・保守費、耐用年数、投資回収期間

順番を逆にして、先に費用を比べ始めると、「そもそも効果が出る場所なのか」が曖昧なまま、見積もりの数字だけが議論されがちです。第1段階で削減人時の見込みが立って初めて、第2段階の費用比較が意味を持ちます。

自動化は、「その工程の制約」を外す

二つの段階を並べると、自動化という打ち手の性格が見えてきます。

AGVと増員を比べるときの、3つの問い
人時の問い どれだけの作業時間が減るのか 対象工程の比率と、残る手作業で見る
費用の問い その削減に、どれだけの費用がかかるのか 第1段階で見込めた削減をもとに、設備の導入費・保守費と人件費を比べる
流れの問い 全体の完了時刻は変わるのか ボトルネックの位置で見る

自動化は、その工程の制約を外す打ち手です。そして制約を外した先に別の制約があれば、全体は変わりにくい。導入したら、ボトルネックが次の工程に移っただけだった、ということは珍しくありません。

これは増員にも同じことが言えます。人を増やした工程がボトルネックでなければ、全体は変わりません。AGVと増員は、どちらも「どこかの工程の能力を上げる」打ち手で、違うのは費用の出方と、変化への合わせやすさです。

数字で試してみる

このシミュレーターは、AGVと増員のどちらを選ぶかを決めるものではありません。まず、自動化した場合に、そもそもどれだけの人時を置き換えられるのかを確かめます。1日の総作業人時と、自動化しようとしている工程の人時を入れると、自動化で減らせる人時の上限と、実際に見込める削減が出ます。上限と見込みの差、そして対象工程がボトルネックかどうか。初期値は冒頭の例に近い状態にしてあります。手元の数字に置き換えてみてください。

人時
入荷から出荷まで、倉庫作業全体に投入している人時
人時
搬送など、AGVで置き換えようとしている作業の人時
%
例外対応や、設備が入れない場所の作業は人に残る
人時
積み付け・荷受け・トラブル対応・充電や清掃の管理など
対象工程は、いまの全体の完了時刻を決めている工程(ボトルネック)か
効果の上限(対象工程の人時がすべてなくなった場合)―
見込める削減(置き換わる分 − 新たに生まれる作業)―
 
0以上の数字を入れてください。対象工程の人時は、総作業人時以下にしてください。
計算の前提
効果の上限 = 対象工程の人時 ÷ 総作業人時
見込める削減 = 対象工程の人時 × 置き換わる割合 − 新たに生まれる作業
人数換算は、1人1日8時間として計算
この計算で分かるのは、「人時の削減がどこまで見込めるか」まで

ここで出るのは作業人時の話です。AGVと増員のどちらを選ぶかを決めるものではありません。費用を比べる前に、ほかにも見ておきたい数字があります。

  • ピーク倍率物量の山が高いほど、能力が固定された設備は、通常時に余りやすくなります。
  • 年間稼働時間設備を年間どれだけの時間使うかで、同じ投資でも1時間あたりの設備費は変わります。
  • 全体の完了時刻への効き方人時が減っても、ボトルネックが別の工程にあれば、出荷の完了時刻は変わりにくいままです。

ここまで見て、打ち手を考えられる

AGVを入れるか、人を増やすか。どちらが正しいかは、現場によって違います。ただ、まず5つの数字で「効果が出る場所か」を確かめ、そのうえで費用を比べる。この順番を踏んで初めて、二つを同じ土俵で比べられるようになります。対象工程の比率が小さい、稼働時間が短い、残る作業が多い、ボトルネックが別にある。こうした条件が重なるほど、自動化によって削減できる人時や投資効果は、慎重に見積もる必要があります。逆に、対象工程の人時が大きく、稼働時間も長く、残る作業が少なく、そこがボトルネックになっているなら、自動化によって変えられる範囲は大きくなります。

そしてもう一つ、比べ始める前に確かめておきたいのは、「どの工程の、どんな制約を外したいのか」です。それが定まっていれば、AGVも増員も、その制約を外すための選択肢の一つとして並べられます。

「AGVか、人か」を問う前に、
「どの工程の制約を外したいのか」を数字で確かめる。

制約を外した先に別の制約があれば、どちらを選んでも、全体は変わりにくいままです。

自動化か増員かを、同じ数字で比べる

NW-Optimizerは、工程ごとの人時や処理量、時間帯ごとの物量といった実績をもとに、「人を増やした場合」「工程の能力を上げた場合」に全体がどう変わるかを比べられるようにする仕組みです。設備投資を検討する前の、いまの数字の整理からご一緒できます。

「自動化を検討しているが、比べる材料が揃っていない」という段階が、ちょうど入口です。

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