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コラム | 物流データ収集技術 #5 | 2026年8月17日

Ethernet・Wi-Fi・セルラー
─データを届ける通信回線の選び方

倉庫内のネットワーク配線と無線通信のイメージ
この記事でわかること
・有線Ethernet・Wi-Fi・セルラー回線それぞれの特性と向き・不向き
・倉庫という環境が通信回線の選定に与える影響
・設置対象・設置場所から回線を逆引きする考え方
・PLCを経由せず、センサーから直接クラウドに送る構成
本記事は「物流データ収集技術」シリーズの#5です。#4「現場からクラウドまで——産業用プロトコルとIoTプロトコルの役割」では、データをやり取りする「言語」であるプロトコルを整理しました。今回は、そのプロトコルを載せる「道」—通信回線の選び方を扱います。
物流データ収集 全体マップ
① 何を集める?(KPI・収集設計)
② モノを識別する(バーコード・RFID・OCR)
③ 状態を計測する(センサー)
④ どう取得する?(PLC・IoTゲートウェイ)
⑤ どう送る?(プロトコル・ネットワーク・API) ← 今回はここ
⑥ どう整える?(ファイル形式・マスタ・データ品質)
⑦ どう活用する?(クラウド基盤・BI・KPI改善)

前回(#4)では、Modbus、OPC UA、MQTTといった通信プロトコルを整理しました。プロトコルは「どんな形式でデータをやり取りするか」を決めるものです。

しかし、プロトコルが決まっただけではデータは届きません。そのデータを実際に運ぶ物理的な通信回線——ケーブルなのか、電波なのか——を決める必要があります。

プロトコルは「何を話すか」、
通信回線は「どこを通すか」。
この2つは別の設計項目です。

そして通信回線の選定は、プロトコルと違って現場の物理条件に大きく左右されます。天井の高さ、金属ラックの配置、設備が動くのか固定なのか、配線工事ができるのか。倉庫という環境は、通信回線にとって決してやさしい場所ではありません。

1. 3つの選択肢——有線Ethernet・Wi-Fi・セルラー

現場からクラウドまでのデータ通信に使われる回線は、大きく3種類に分けられます。

回線 特徴 向いている用途
有線Ethernet
(LANケーブル)
通信品質が安定し、電波環境の影響を受けない。ケーブル敷設工事が必要で、設置後の変更に手間がかかる 位置が固定された設備(コンベア、ソーター、自動倉庫、PLC盤)
Wi-Fi
(無線LAN)
配線工事が不要で、機器の移動や増設に対応しやすい。一方で、電波の届く範囲や周囲の環境に影響を受ける 移動する機器や、配線が難しい機器
セルラー
(LTE/5G/LTE-M・NB-IoTなど)
通信事業者の回線を利用するため、社内ネットワークの構築が不要な構成にしやすい。SIMを利用して、社内ネットワークとは独立した通信環境を構築できる。回線の利用料が継続的に発生する 社内ネットワークにつなげない設備、屋外・構内トラック、複数拠点への横展開

この3つは「どれが優れているか」ではなく、設置対象と設置場所によって使い分けるものです。実際の倉庫では、複数の回線が併存しているケースがほとんどです。

セルラー回線の選択肢

「セルラー」と一口に言っても、いくつかの種類があります。

種類 概要
LTE / 5G 一般的な携帯電話網。カメラ映像など比較的データ量の多い用途にも対応できる
LTE-M / NB-IoT 低消費電力・小容量の通信を想定したセルラー方式(LPWAと総称される通信方式群の一つ)。送信データ量が小さく、送信頻度の低いセンサー用途に向く。電池駆動で長期間の運用を想定した機器で採用されることがある
ローカル5G 自社の施設内に5Gネットワークを構築する方式。総務省による無線局免許の取得が必要
セルラー回線を利用する場合、インターネットを経由せずクラウドや自社システムに接続する閉域接続サービスを提供している通信事業者もあります。セキュリティ要件が厳しい環境では、こうしたサービスの利用が検討されます。詳細は契約する通信事業者への確認が必要です。

2. 倉庫という環境が回線選定に与える影響

オフィスと倉庫では、無線通信の条件が大きく異なります。倉庫特有の条件を、あらかじめ想定しておく必要があります。

金属が多い

スチールラック、金属パレット、コンベアのフレーム、フォークリフト。倉庫内には金属が大量にあります。金属は電波を反射・遮蔽するため、見通しがよさそうに見えても電波が届かない場所が発生することがあります。

レイアウトが変わる

在庫の積み方、ラックの配置、繁忙期の仮置きスペース。倉庫のレイアウトは季節や取扱商品によって変化します。導入時に電波が届いていても、数か月後には状況が変わっていることがあります。

空間が広く、天井が高い

数千平米規模の倉庫では、1台のアクセスポイントでカバーできる範囲は限られます。天井が高い倉庫では、アクセスポイントの設置位置や角度も検討事項になります。

特殊な温度環境

冷凍・冷蔵倉庫では、機器の動作温度範囲が制約になります。一般的なオフィス向け機器では動作が保証されない場合があるため、環境に対応した機器の選定が必要です。

電波の届き方は、実際にその現場で測ってみないとわかりません。無線を前提とする構成では、導入前に電波調査(サイトサーベイ)を行うことが重要です。図面上の検討だけで進めると、稼働後に「特定のエリアだけデータが飛んでこない」という問題が起きやすくなります。

3. 何をどこに置くか——から逆引きする

回線を先に決めるのではなく、「どこにある何からデータを取るのか」を起点に考えると、選択肢は絞り込めます。

データを取る対象 設置場所の条件 回線の第一候補
コンベア・ソーターの制御盤(PLC) 位置が固定・電源あり 有線Ethernet
自動倉庫・マテハン設備 位置が固定・既存の制御ネットワークあり 有線Ethernet
ハンディターミナル・タブレット 作業者が持ち歩く Wi-Fi
AGV・搬送ロボット 倉庫内を移動する Wi-Fi(機種により指定される場合あり)
後付けの温湿度センサー 配線工事が難しい・電池駆動 無線(LPWA・BLE等、機器の仕様による)
屋外・構内の車両やトレーラー 建物の外・社内LANが届かない セルラー
賃貸倉庫・共同倉庫の設備 社内ネットワークに接続できない セルラー

※ 実際の選定は、機器メーカーが対応する通信方式や、現場のネットワーク運用ルールによって決まります。上表は考え方の出発点として参照してください。

4. PLCを経由しない構成——センサーから直接クラウドへ

#3・#4では、PLCからIoTゲートウェイを経由してクラウドに送る構成を中心に整理しました。ただし、これがすべてではありません。

PLCが存在しない設備や、既存のPLCに手を入れられない場合、センサーから直接クラウドに送る構成が採られることがあります。この場合、大きく2つのパターンがあります。

パターンA:センサー → IoTゲートウェイ → クラウド

▼ センサーをゲートウェイに直結する構成

センサー
アナログ / 接点信号
→
IoTゲートウェイ
LTE通信対応
→
クラウド
MQTT / HTTPS

アナログ入力(4-20mA、0-5Vなど)や接点入力の端子を備えたIoTゲートウェイ製品があり、センサーを直接接続できます。アナログ入力4ch・接点入力10chといった多入力モデルや、電力クランプセンサーを複数接続できる製品などが市販されています。

ここでのIoTゲートウェイの役割は、#3・#4で扱ったものとは異なります。
PLC経由の構成では、IoTゲートウェイはPLCが保持しているデータを産業用プロトコルで読み出し、クラウド向けの形式に変換する「プロトコル変換」が中心的な役割でした。一方この構成では、センサーから届く電気信号を受け取ってデジタル化し、意味のある数値に変換する役割を担います。同じ「IoTゲートウェイ」という名称でも、製品によって備える機能は異なるため、選定時には対応する入力方式の確認が必要です。

パターンB:センサー一体型IoTデバイス → クラウド

▼ ゲートウェイを介さない構成

センサー一体型IoTデバイス
LTE通信対応
→
クラウド
MQTT / HTTPS

センサーと通信モジュール・SIMを内蔵した製品も広く提供されています。温湿度、照度、CO2濃度、ドア開閉、振動、位置情報(GPS)といったセンサーを内蔵し、LTE-Mなどのセルラー通信を利用して定期的にクラウドへ送信します。電池駆動・防水仕様で、電源も配線も不要な製品もあります。

この構成では、ゲートウェイという中間装置そのものが存在しません。導入時のネットワーク工事や配線の負担を抑えやすくなります。一方で、取得できるデータはその製品が内蔵するセンサーの範囲に限られます。

いずれのパターンでも、セルラー回線を利用することで社内ネットワークとは独立した通信経路でデータを収集する構成にできます。

これらの構成が選ばれる場面

社内ネットワークへの接続が難しい場合。 情報システム部門の管理下にあるネットワークに新しい機器を接続するには、社内の承認プロセスやセキュリティ審査が必要になることがあります。セルラー回線であれば、そのネットワークとは独立した経路でデータを送れます。

賃貸倉庫・共同倉庫の場合。 建物側のネットワークを自由に使えない環境では、セルラー回線が現実的な選択肢になります。

小さく始めて検証したい場合。 ネットワーク工事を伴わないため、限られたエリア・限られた台数から試験的に導入し、効果を確認してから広げるという進め方が取りやすくなります。

一方で、セルラー回線では回線利用料などの運用費用が継続的に発生します。サービスによっては通信量に応じて料金が変動します。センサーの台数が多い場合や、カメラ映像のようにデータ量が大きい場合は、有線・Wi-Fiとの比較検討が必要です。「初期費用を抑えやすい一方、運用費用は継続する」という費用構造の違いを踏まえた判断になります。

5. 回線選定で確認すべき4つのこと

① 機器が対応している通信方式

センサーやIoTゲートウェイが対応する通信方式は、製品仕様として決まっています。「Wi-Fiで送りたい」と考えても、機器が有線Ethernetにしか対応していなければ選択肢になりません。まず機器の仕様を確認することが出発点です。

② 設置場所に電源があるか

通信方式の前に、電源の問題があります。電源が確保できない場所では、電池駆動の機器と、消費電力の小さい通信方式の組み合わせを検討することになります。この場合、送信頻度も設計項目になります。

③ 社内ネットワークの運用ルール

既存の社内ネットワークに機器を接続する場合、情報システム部門との調整が必要です。接続申請の手順、セキュリティ要件、IPアドレスの割り当て。これらは技術的な問題というより、組織内の調整に時間がかかる項目です。プロジェクトの早い段階で確認しておくと、後の遅延を防げます。

④ 将来の拡張をどう考えるか

1つの倉庫で検証した後、他の拠点にも広げる可能性があるなら、その時点で構成を作り直さずに済むかを考えておく必要があります。拠点ごとにネットワーク環境が異なる場合、環境依存の少ない構成のほうが横展開しやすくなります。

通信回線の設計は、電波環境の調査、機器の設置工事、ネットワーク機器の設定など、専門的な作業を伴います。本コラムでは選定の考え方までを扱っていますが、実際の構築にあたっては、ネットワーク構築を手がける事業者やシステムインテグレーターとの連携が必要です。

まとめ:回線は「現場の物理条件」から決まる

通信回線の選定は、カタログスペックの比較ではありません。「どこにある何からデータを取るのか」という現場の物理条件が、選択肢をほぼ決めます。

位置が固定された設備なら有線Ethernet、移動するものならWi-Fi、社内ネットワークにつなげない場所ならセルラー。この大まかな対応関係を押さえたうえで、機器の対応仕様・電源・社内ルールを確認していく——という順序で進めるのが現実的です。

「どの回線が優れているか」ではなく、
「この場所で、この機器から、どう送るか」。
回線は現場ごとに決まります。
次回は、「集めたデータが使えない——ファイル形式・マスタ・データ品質の壁」として、収集したデータを分析に使える状態に整えるまでに立ちはだかる課題を整理します。データが届いても、そのままでは分析に使えないことが少なくありません。
「どの回線で、どこからデータを取るか」の構成設計からご相談いただけます

通信回線の選定は、現場の環境や既存設備によって答えが変わります。重要なのは、回線を選ぶこと自体ではなく、最終的にどのKPIを改善するために、どのデータを収集するかを決めることです。Nexa Warehouse-Optimizerは、収集したデータをKPIとして可視化し、改善サイクルにつなげる分析基盤です。

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